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アルペンスキーの42歳・佐々木明、9季ぶり復帰で5度目の五輪へ「イチかバチか」の再挑戦

2023 11/26 06:00田村崇仁
佐々木明,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

天才スキーヤー「年甲斐もなく攻める」

アルペンスキー界で佐々木明といえば、その名を知らない人はいないだろう。ワールドカップ(W杯)で日本勢最高の2位に男子回転で3度入った実績を持ち、4大会連続で冬季五輪に出場。型破りな言動と攻撃的な滑りで「天才」と呼ばれた元エースだ。

そんな男が2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪で3大会ぶり5度目の出場を目指し、9季ぶりにアルペンの世界へカムバックして異例の挑戦を続けている。

2014年ソチ冬季五輪後に山岳スキーのプロに転身していたが、北京冬季五輪直後の2022年3月にフィジカルの強さが重視されるアルペン復帰を決意。「クラウドファンディング」で目標の3倍を超える約3400万円の支援を受け、2022年8月の南米遠征では国際スキー・スノーボード連盟(FIS)公認大会復帰戦から2連勝した。

42歳をスイスで迎えた最近のSNSでは「多くの方々に助けてもらいながら新たな一歩の毎日を歩める40代になることができました。自分の中では20代の時とほぼ変わっていないんだけど各国どこを訪れてもレジェンドと言うワードが浴びせられます。そんな歳になったと言う事を理解しながら今後も年甲斐もなく攻めるし、年甲斐もなく速いし、強いスキーヤーになる」と新たな決意を口にした。

9年ブランク、苦闘の連続も「中年の星」に

北海道のスキー一家に育ち、3歳でスキーを始めてからゲレンデが自身の輝く場所であり続けた。

まだ20代の佐々木に2006年トリノ冬季五輪前、インタビューする機会を得た時のインパクトは忘れようもない。「アルペン界の伝統を覆したい」とアルペンスキーで日本選手として半世紀ぶりのメダル奪取を宣言。「五輪はお祭り騒ぎで、トップの30選手が一発を狙ってくる。僕もイチかバチか、ゼロか百かで。それ以外必要ないし、一番悲しいのって4番とかでしょ?」と威勢よく語った。強がりでなく、それだけの実績もあった。

ただトリノ大会を含めて4度の冬季五輪では2010年バンクーバー大会の18位が最高で、好成績を残せなかった。

だからこそ「40代になっても諦めない」と並々ならぬ意欲を燃やす。9年のブランクを取り戻すには苦闘の連続であっても「中年の星」として再挑戦するモチベーションは人一倍高い。

SNSでは「9年のブランクはやり過ぎだと思いますけど、やれない事など何も無いと信じています。やるのかやらないのかの二択でやると決断しただけでも人生最大の勇気を使いました」と心境をつづった。

右肩の靱帯を断裂するなど負傷を負っても、アルペンレーサーとしての感覚や闘争本能を求めてスタート台に立ち続ける。

夢の金メダルへ「勝負の世界に年齢関係ない」

アジア勢によるアルペンスキーの表彰台は、1956年コルティナダンペッツォ冬季五輪で銀メダルを獲得した猪谷千春(現国際オリンピック委員会=IOC=名誉委員)1人だ。

佐々木は自身のインスタで「2026のミラノオリンピックを迎える時は44歳。フィジカルがものを言うこの種目において老化が勝るのか、それとも定説を覆すのか、そんな世界の常識に楯突く様なこの挑戦が今は刺激を僕に与えてくれる」とコメントしている。

そして「世界は遠い様で近く、近い様で遠い。それを知っているからこそ出来る挑戦です。勝負の世界に年齢は関係ないしね。日本の未来ある選手達よ、共に頑張っていこう!」と後輩へのエールも忘れていない。

試行錯誤しながらトップ選手の新しい技術を貪欲に吸収し、夢に見るのは五輪の金メダル。美しい山が険しければ険しいほど、スキーヤーとしての本能が覚醒する。佐々木が以前口にした「イチかバチか、ゼロか百か」という気構えの再挑戦を期待して見守りたい。

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