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ジャンプ界「無敵」の新エース小林陵侑 レジェンドも惚れた逸材の勢いが止まらない

2019 1/19 15:00市原新
小林陵侑,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

史上3度目のジャンプ週間完全制覇

ノルディックスキーのジャンプ男子で新世代のエースが誕生した。67回目となる年末年始伝統のジャンプ週間を締めくくる1月6日、22歳の小林陵侑(土屋ホーム)が史上3度目となる4戦4勝の完全制覇を果たし、総合王者に輝いた。船木和喜、原田雅彦らを擁し、1990年代に世界屈指の選手層を誇った日本ジャンプ界が再び世界の脚光を浴びている。

「Unbeatable」(無敵)。国際スキー連盟(FIS)の公式サイトは小林の強さをこう形容した。

今季の急成長と勢いを物語る大会がある。年明けの1日、ドイツのガルミッシュパルテンキルヘンで行われたジャンプ週間第2戦を兼ねたワールドカップ(W杯)個人第9戦(ヒルサイズ=HS142メートル、K点=125メートル)だ。小林はこの大会で合計266.6点をマークし、3連勝で頂点に立った。

不利な追い風も味方

ジャンプは向い風だと飛距離を稼ぎやすく、反対に追い風だと思うように飛距離が伸びない。小林の1回目は不利な追い風だったが、コーチから迷わずスタートの合図が送られ、136.5メートルと十分な飛距離でトップ。同じく追い風となった2回目も難条件を克服し、133メートルまで粘った。2回とも好条件の風に当たった2位のマルクス・アイゼンビヒラー(ドイツ)に飛距離と飛型点で劣ったが、より難しい条件で飛んだことによって計8.2点の加点を受け競り勝った。

ジャンプは飛距離点と飛行姿勢の美しさなどを得点化した飛型点の合計で争う競技だが、このほか「ウインドファクター」と呼ばれる風の条件による得点の加減がある。この大会のラージヒルは不利な追い風では、秒速1メートル当たり12.64点が加算され、有利な向かい風なら10.44点が減らされる。

小林が0.2点リードして臨んだ2回目、先に飛んだアイゼンビヒラーは135メートルをマークし、飛距離点は78.0点。最後に飛んだ小林は133メートルの同74.4点。飛型点は相手の56点に対し、小林は55.5点。この合計だけならアイゼンビヒラーが4.1点上回り、逆転した計算になる。だが、秒速0.27メートルの不利な追い風で飛んだ小林には3.4点が足され、向かい風0.23メートルの好条件だったアイゼンビヒラーは2.4点を引かれた。この結果、小林が最終的に1.9点上回った。

助走から力強い踏み切りを含めた卓越した技術の高さと、風の条件による得点補正で受けた加点が勝利につながった。今の小林には追い風でも味方にしてしまう破竹の勢いと実力がある。

葛西紀明が惚れ込んだ逸材に称賛の嵐

不振を乗り越え、今季覚醒したきっかけは昨年2月の平昌冬季五輪だ。当時は兄の潤志郎(雪印メグミルク)が日本のエース格だったが、個人ノーマルヒルで7位入賞を果たし、ラージヒル団体ではアンカーにも抜てきされたことで自信をつけた。

高い瞬発力や足首の類いまれな柔らかさが特徴で、空中姿勢の安定感も随一。「レジェンド(伝説)」と呼ばれる葛西紀明がほれ込み、自身が監督を兼任する土屋ホームにスカウトした逸材だ。

1月12日、イタリアのバルディフィエメで行われた個人第12戦(ヒルサイズ=HS135メートル、K点120メートル)では、1回目135メートル、2回目136メートルの合計315.0点で圧勝し、史上最多に並ぶ6連勝を果たした。ライバルを悩ませた追い風も、波打って滑りにくい助走路も苦にせず、この試合でも計17.5点のウインドファクターを引き出した。

W杯ジャンプ男子の6連勝は5人目で、2008~09年シーズンのシュリーレンツァウアー(オーストリア)以来、10季ぶりの快挙。04~05年シーズンのアホネンとハウタマキ(ともにフィンランド)と07~08年シーズンのモルゲンシュテルン(オーストリア)も達成している。日本選手のW杯シーズン最多勝利記録を9に伸ばし、通算勝利数では日本歴代3位の原田雅彦に並んだ。

まさに記録ずくめの快進撃で、欧州でも「鳥人」「怪物」などと称賛されて人気と注目もうなぎ上り。インスタグラムのフォロワー数は、2万5000人を超えた。W杯個人総合は首位を独走中で、日本男子初の王者誕生へとこれからも突き進む。