優勝回数は男女歴代最多の57勝
152センチの小柄な体で歴史を切り開いてきた23歳の底力を示すジャンプだった。ノルディックスキーのワールドカップ(W杯)ジャンプは3月9日、リレハンメルで行われ、女子の個人第15戦(ヒルサイズ=HS140メートル)で2018年平昌冬季五輪銅メダルの高梨沙羅(クラレ)が今季初優勝を飾った。
男女歴代最多の優勝回数を57に伸ばし、節目の大台に到達するW杯通算100度目の表彰台に花を添えた。地元メディアに「言葉がない。いいジャンプができた。今後もベストを尽くす」と英語で応じた。
強い追い風に苦しむ選手が続出する中、1回目に120.5メートルでトップに立つと、2回目も127.5メートルを飛んで合計296.9点として逃げ切った。男子で108回表彰台に上がっているヤンネ・アホネン(フィンランド)に続き、女子では前人未到の快挙を達成。
高梨は15歳だった2011年12月にW杯初出場し、2012年3月の蔵王大会で初優勝した。2012年1月のドイツ大会で2位に入り、初めて表彰台に立って以来、9シーズンで大台に到達。これで男女歴代最多更新も視界に捉えた。
近年は海外勢台頭で昨季1勝
トップで迎えた2回目。国際スキー連盟(FIS)のサイトによると、理想の飛躍を追求する日本のエースは鋭い踏み切りで美しい飛行曲線を描き、安定した着地も決めた。速報の合計点を確認すると、笑顔で小さくガッツポーズ。今季は助走姿勢で試行錯誤を重ねてきたが、上半身をかぶせるタイミングを変えるなど修正が奏功した。
かつて連戦連勝で無類の強さを誇った絶対女王にも近年は試練が訪れ、平昌冬季五輪女王で個人総合2連覇中のマーレン・ルンビ(ノルウェー)、成長著しい今季6勝のキアラ・ヘルツル(オーストリア)ら海外勢の台頭もあって昨季は1勝。今季もここまで勝利から遠ざかり、W杯優勝は昨年2月のリュブノ大会(スロベニア)以来となった。
日本男子最多は葛西の63度
W杯通算の表彰台で日本男子最多は47歳のベテラン葛西紀明(土屋ホーム)の63度。単純比較はできないものの、これだけでも2012年3月に15歳でW杯初優勝を果たした高梨の驚異的なスピード到達ぶりが浮き彫りとなる。
2012~13年から5シーズンでW杯個人総合優勝4度。世界選手権は個人で2013年に銀、2017年に銅、混合団体では2013年に金メダルを獲得。ジャンプ女子が初実施された2014年ソチ五輪は金メダルの大本命と期待されながら4位にとどまったが、大会ごとに一喜一憂せず、1メートルでも先に飛びたいと着実に理想のジャンプを追求する姿勢は今も昔も変わらない。
かつての天才少女はどこまで記録を積み上げるのか―。理想のジャンプへ完成度はまだ道半ば。開拓者が見据える次のステージからも目が離せない。