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ラグビーW杯へ釜石に新スタジアム完成 こけら落としイベント盛況、一方で課題も

2018 9/1 13:00藤井一
釜石シーウェイブス,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

6年ぶりに集ったV7戦士には笑顔があふれた

来年のラグビーW杯、12の開催地の一つである釜石鵜住居(かまいしうのすまい)復興スタジアムが完成し、そのこけら落としイベントが8月19日に行われた。

ラグビーファンにとって最大の注目はともに日本選手権7連覇を達成した新日鉄釜石と神戸製鋼によるレジェンドマッチであった。

2012年にも新日鉄釜石と神戸製鋼による震災復興レジェンドマッチが秩父宮ラグビー場で行われている。今回は、新スタジアム完成にあわせ、改めて、釜石市の震災からの復興を願って前回とほぼ同じ最高のメンバーが集結した。

釜石SO松尾雄治が走り、CTB小林(角)日出夫がギャップを突く。神鋼LO林敏之が突進し、そのサポートに大八木淳史が走る。

そんな戦いに釜石不動の名プロップ故洞口孝治さん、神鋼のミスターラグビー故平尾誠二さんがいなかったのは寂しい限りだが、これについては松尾雄治がパンフレットに「ホラ(洞口)、平尾、空から試合を見守ってくれ」とのコメントを寄せている。これは出場全選手共通の思いだろう。

試合は前半10分がV7レジェンドメンバーでの対戦で、後半の20分はそれ以外のOBが主に出場するという形式だった。メンバー交代は自由。選手も観客も笑顔、笑顔。夢のような時間が過ぎていった。

松尾雄治,新日鐵釜石レジェンド,Ⓒゲッティイメージズ

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メインゲームはシーウェイブス戦

スタンドが一番盛り上がったのはレジェンドマッチだったが、この日のメインゲームは釜石シーウェイブスとヤマハ発動機ジュビロとのメモリアルマッチだ。

現在トップチャレンジリーグに所属し、来季のトップリーグ昇格を目指す釜石。トップリーグで常に優勝を争うレベルにあるヤマハ発動機とこの時期に対戦できるのは大変貴重である。

結果は若手主体のヤマハ発動機がほぼベストメンバーの釜石に29-24で勝った。スコア上は競ったので、スタンドは最後まで熱気に包まれ、イベントとしては成功といえるだろう。

ただ、釜石はスクラムで圧倒され内容的には完敗だった。これは決して明るい材料ではないが、この経験を活かして本番のトップチャレンジリーグに臨んでもらいたい。

ところで新スタジアムは?

この新スタジアムはハイブリッドの芝が敷き詰められていてプレーする側には快適だ。観客にとっても海も近く景色もいいのだが、ビジョンはもちろん、得点や、経過時間、メンバーなどを表示する電光掲示板がない。従ってビジョン、スコアボードなどは試合ごとに仮設で設置される。

今回のイベントでは得点と経過時間だけがわかる簡易ボードと移動式の大型ビジョンがゴール裏に持ち込まれただけだったので、観客は出場している選手が誰なのかは場内アナウンスを聞いていないとわからなかった。

一見不便にも思えるが、五輪やサッカーW杯といった大きな大会の開催国が大規模な会場や豪華な施設を新設した結果、大会後に国や地域の負担となってしまう問題が近年発生していることを考えれば、理にかなった選択だ。

W杯以降、どれだけの大きなイベントができるかは未知数。電光掲示板を常設すると工費だけでなく、維持費もかさむということで設置が見送られた。いまだ震災から復興途上の釜石、市の負担を可能な限り抑え先々の運営コストを考えたつくりとなった。

釜石鵜住居復興スタジアム,Ⓒゲッティイメージズ

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アクセスに課題も

ただ、交通アクセスについてはW杯へ向け課題がある。

スタジアムはJR釜石駅から車で10~15分ほどの距離だ。現在は車以外にこのスタジアムに行く方法はないが、第三セクターの三陸鉄道(旧JR山田線)が来年3月に全線開通する。そうなればこのスタジアムへは鉄路で行くことができる。

東北新幹線の新花巻駅からJR釜石線に乗り換え、快速だと約1時間半で終点の釜石駅だ。ここでさらに三陸鉄道に乗り換えれば、鵜住居駅まで10分とかからない。そこからは徒歩数分で着ける。

ただし、三陸鉄道は非電化の単線だ。ホーム自体も短く、4両編成が限界だろう。さらに車両は都市圏などで見られるロングシートではないクロスシートと呼ばれる対面式の座席で1両あたり150人ぐらいが限度と考えられる。となると4両編成では1回の輸送で上限が600人だ。付け加えるとJR釜石線も快速は通常4両編成である。

つまり、新花巻から鉄道だと5往復しても運べるのは3000人程度で、W杯で1万6000人を集客するのならこれは全体の2割に満たないのだ。大半は三陸鉄道利用以外の方法でこのスタジアムに向かうことになる。

それにはバスしかないのは明白だ。それもJR釜石駅だけではなく、新花巻、東北在住のラグビーファンのことを考えたら盛岡や仙台、青森など東北各地の主要都市からの輸送が必要となるだろう。花巻空港からの直通バスも必須だ。

釜石がラグビーの町であることに異論を唱える人はいまい。しかし、関係者はそこに行くには?という問題の答えをしっかり出さなければいけない。復興を願うからこそ、スタジアムが復興につながる原動力となるために。そんなことを痛感させられたこけら落としイベントであった。