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W杯日本大会へ高まるラグビー熱 初のアジア大会に世界も注目

2018 8/5 11:00SPAIA編集部
ラグビーワールドカップ2019
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Ⓒゲッティイメージズ

経済波及効果は4,300億円

開幕まで約1年となったラグビーワールドカップ2019日本大会(2019年9月20日~11月2日)。世界90カ国の中から各地域で予選を勝ち抜いた8カ国と前大会プール戦トップ3の12カ国が世界一を懸けて35日間の熱戦を繰り広げる、世界3大スポーツ祭典にも数えられる大会だ。

日本各地、北は北海道から南は熊本県まで12会場でプール戦40試合、決勝トーナメント8試合を実施。それに合わせ岩手県釜石市にスタジアムが新設され、埼玉県の熊谷ラグビー場、大阪府の花園ラグビー場で改修工事が行われている。

地方自治体のみならず、市民もW杯に向け自主的にPRを行うなど、開催県を中心に徐々に盛り上がりを見せ、サッカーワールドカップを終えた今、2019年へ徐々にラグビー熱が高まっている。

それを証明するように、7月18日まで行っていた大会ボランティアの募集には大会史上最多の3万8,000人の応募があり、2015年イングランド大会の6,000人をはるかに超える人々が集まった。

チケット販売も好調で、プール戦のセット券チケット先行抽選販売には30万枚に対し100カ国以上から86万枚、先行発売された抽選チケット全体では250万枚の応募があり世界中から高い関心が寄せられている。

日本大会の経済波及効果は4,300億円と予測され、観戦者は最大180万人、訪日観光客は40万人にもなると見込まれており、2019年の世界最大のイベントになることは間違いない。

W杯以前の国際試合はテストマッチのみ

そんな日本大会だが、実はW杯としては9回目。ラグビーW杯は31年前に始まったばかりの若い大会で、それ以前の国際試合はテストマッチしかなく、各国代表の本気が見られるのはテストマッチだけだった。

テストマッチと聞くと親善試合やそれこそ練習試合の印象を受けるが、ラグビーでテストマッチと呼ばれるのはフル代表同士の試合のみ。しかも、世界ランキングの評価対象となる国と国の誇りがぶつかり合う真剣勝負だ。

テストマッチがなぜこれほど大きな意味合いを持つかと言うと、それはラグビー発祥の国がイングランドであり、大英帝国と呼ばれ史上最大の版図を築いていたころ、世界各地の自治領や植民地にラグビーを伝えたことに関係する。

国力ではかなわないかつての自治領や植民地が唯一宗主国に勝てる可能性があったのがラグビーのテストマッチだったのだ。イングランドも宗主国と発祥国の誇りを守るため全力で迎え撃つ。1871年に行われたイングランド対スコットランド戦以来、いつしかテストマッチは国家の威信をかけた代表試合として定着し、1987年の第1回W杯まで、国家間の実力が分かる唯一の場として各国代表がしのぎを削っていた。

ちなみに、ラグビーの代表試合出場回数をキャップと言うが、これは国家の代表としてテストマッチ(現在ではW杯も含む)に出場する栄誉を称え、試合ごとに帽子を贈っていたことに由来する。

グローバルスポーツへの転換点

日本がW杯開催国になるということは実はラグビー界にとって大きな意味がある。

ラグビーW杯は全世界で40億人がテレビ視聴するスポーツの祭典で、競技そのものも日本国内では比較的メジャーなスポーツだ。しかし、ラグビーの競技人口は全世界約800万人で、野球の約3,500万人、サッカーの約2億7,000万人と比較すると極端に少ない。

この理由の一つは、前述の競技の広がりにある。ラグビーは大英帝国に縁のある国を中心に発展しているスポーツなのだ。加えてティアと呼ばれる階級制度とあいまって、他競技に比べ新参者に閉鎖的な側面を持っていた。

ティアはランキング制度ではなく階級制度であるため、単純な勝ち負けでは変動しない。昇級、降格に明確な基準がなく、伝統や歴史に基づいた「格」で定められている。この枠組みによってテストマッチの組み合わせが決まるため、最高位のティア1に属する国とティア2に属する国が対戦することはほとんどない。

代表チームの強化には強豪国との対戦が不可欠だが、それがこの制度によって阻害され、W杯が開かれるまで当事国以外で世界レベルの試合を見られる機会はほとんどなかった。その結果、強豪国以外の国に興味を持つ人間を増やすこともできなかった。

これまでティア1に属する国で開催されていたW杯を、ティア2の日本で行う理由はそこにある。アジアの近隣諸国や訪日客にラグビーをPRすることで世界的な競技の振興を目指しているのだ。2019年大会の概要にも、「アジアという新しいテリトリーで大会を成功させ、ラグビーをグローバルスポーツに押し上げる」と明記されている。

開幕まで残り1年、ラグビーが「大英帝国のスポーツ」から世界的なスポーツに変わる大会となるのか。各国代表や試合結果だけでなく、ラグビー史の転換点としても注目していきたい。