「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【ラグビーW杯】勝ちに徹した南アフリカの2連覇は世界の潮流にどう影響するか

2023 10/31 06:00江良与一
優勝した南アフリカ,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

ニュージーランドに12-11でW杯決勝4連勝

ラグビーワールドカップ2023フランス大会決勝が10月28日(日本時間29日)に行われ、南アフリカが12-11でニュージーランドを下して優勝した。南アフリカは前回の2019年日本大会に続いて2連覇を果たし、通算優勝回数を世界最多の4回に伸ばした。

大会2連覇は2011年ニュージーランド大会、2015年イングランド大会を連覇したニュージーランド以来、史上2チーム目。南アフリカは出場8回のうち4回は決勝進出して全て勝っており、ワールドカップ決勝の連勝記録を4に伸ばした。決勝進出すれば必ず優勝する勝負強さは「世界最強」と呼ぶにふさわしい。

明暗を分けたニュージーランドFLサム・ケインの退場

試合は開始早々から、両チームが強いフィジカルをぶつけあう激しい展開となった。

開始3分でニュージーランドのFLシャノン・フリゼルが危険なプレーでシンビン(10分間の一時退場)を命じられる。早い時間帯でトライを積み重ねて得点差を広げ試合を優位に進めたかったニュージーランドの目論見は崩れた。それどころか密集戦での苦戦を強いられ、トライこそ奪われなかったものの、南アフリカのSOハンドレ・ポラードに立て続けに2本PGを決められて主導権を握られてしまった。

ポラードはこの試合も含め、今大会はすべてのプレースキックを決めるというスーパーブーツぶりを見せつけた。HOマルコム・マークスの負傷離脱に伴う補充要員として大会中に急遽呼ばれたポラードだが、もし彼がスコッド入りしていなかったら、今回の優勝はなかったかもしれない。

さらに、前半29分にはニュージーランドの主将でもあるFLサム・ケインのタックルが相手の顔面に肩が入った危険なものであると判断され、退場となった。残り時間は51分もあり、南アフリカのFWのフィジカルの強さを考え併せれば、散々に蹂躙されての完敗も予想された。

事実、今年8月に行われた両者の前哨戦では、やはり一人をレッドカードで欠いたニュージーランドが7-35の両者対戦史上最多得点差で惨敗しているのだ。しかも今回の退場者はスキッパーでもあるケインである。この時点でニュージーランドの勝ち目はなくなったと感じた方は多かったのではないだろうか。

ボーデン・バレットが唯一のトライも…

ところが、ニュージーランドはここから驚異的な粘りを見せる。PGを2本追加されたものの、SOリッチー・モウンガが2本PGを返して6-12と南アフリカに食らいついて折り返すと、後半は1人少ないというハンデを感じさせないほどの攻撃をみせた。

特に光ったのがセットプレー。スクラムはケインの代わりに不慣れなCTBジョーディー・バレットが入ったものの、準決勝で「世界一」と言っても良い強さをみせた南アフリカを相手に、文字通り一歩も後退しなかった。ラインアウトに目を転じれば、10本の相手ボールのうち4本のスチールをしてみせた。

南アフリカはHOのムボゲニ・ムボナンビが負傷退場し、HOが本職ではないディオン・フーリーが早々に入れ替え出場せざるを得なかったという事情があるにせよ、一歩間違えば南アフリカの方が大量失点していてもおかしくないセットプレーの出来だった。

優位なセットプレーを活かして攻めに攻めたニュージーランドは後半18分、FW・BK一体となってボールをつなぎ、最後は左隅にFBボーデン・バレットがこの試合両チーム唯一となるトライ。コンバージョンキックは外れたものの11-12の1点差と迫り、いよいよニュージーランドの攻勢は強まった。

しかし、ニュージーランドはこのトライ以降ついに最後まで緑の壁をぶち破ることができなかった。やはり、リンケージプレーヤー、あるいはペネトレーターとしてのFLが一枚少なかったことで、ギリギリの場面で遅れを取り、「あと一歩」が出なかった。

それでも後半33分には敵陣でPGのチャンスを得て、CTBジョーディー・バレットが狙ったものの外してしまった。ラストプレー、捨て身のニュージーランドは全員が死に物狂いの猛攻を見せたが、最後は接点で反則を犯して万事休す。準々決勝のフランス、準決勝のイングランドを1点差で撃破してきた南アフリカが3試合連続の1点差勝利で世界一の栄冠を手にした。

勝つために突き詰めた南アフリカの戦法

南アフリカの基本的な戦術は、一が八かの強引なプレーを良しとせず、接点のファイトで強いフィジカルを前面に出してマイボールを確保し続け、相手ボールはターンオーバーを狙うというもの。その過程で、相手に反則を犯させて、安定したキッカーにPGを蹴らせて3点ずつ小刻みに積み重ねていくという得点方法だ。

今大会でも準々決勝以降の3試合はすべてこのパターンがハマり勝利を手にした。ラグビーというスポーツが1点でも多く得点した方が勝ちというルールである以上、勝つために突き詰めた一つの戦法であり、実際に2連覇を果たした以上、現時点においては最も「正しい」戦法ということになるだろう。

この戦法を突き詰めるために、強いフィジカルを作り上げ、タフな接点バトルを80分間続け得るフィットネスを鍛え上げた南アフリカの努力には感服するしかない。

南アフリカの2連覇が世界の潮流に与える影響

しかし、ラグビーはトライが最大の魅力であり、いかに多くのトライを取るかに注力するチームの方がファンを魅了するのも事実。今大会の決勝でも、南アフリカの勝利に感動した方と同数、あるいはそれ以上のファンが、南アフリカのディフェンスをなんとかこじ開けようと奮戦し続けたニュージーランドのプレーに感動したのではないだろうか。

強いチームが強力なディフェンスを誇るなら、それを打ち破ってトライを奪うようなアタックを開発するチームの出現を期待したい。キックが勝負の分かれ目になる試合があっても良いが、キックだけで決まってしまう試合が増えていくことは、ラグビーの魅力が損なわれる恐れをはらむ。

元々多彩なトライの取り方を持つニュージーランド。小刻みで素早いパス回しを多用し、そこに強力な突破役を絡ませることでディフェンス網をかきまわして予選プールで南アフリカを破ったアイルランド。奔放なランプレーが持ち味のフランス。今大会で南アフリカとは別の強さを追求しているチームも数多く見られた。

次回の2027年オーストラリア大会に向けての戦いはすでに始まっている。今回は悔しい思いをした各協会が、次に向けてどのような方針でどのようなチームを作り上げるか。指導者が代わるチームもあれば、主力選手が代替わりするチームもあるだろう。南アフリカの史上初の3連覇なるか、あるいはそれを阻むチームが出てくるのか。4年後が待ち遠しい。

【関連記事】
ラグビーワールドカップの歴代日本代表成績と優勝国
ラグビー日本代表が直面した世界との壁 再びのW杯8強入りへ克服すべき課題
ラグビーワールドカップ日本代表の歴代監督・ヘッドコーチ、歴史を紡いだ8人の指揮官