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【ラグビーW杯】快勝発進も課題露呈した日本代表 次戦イングランド戦に向けての光明と勝機

2023 9/13 06:00江良与一
チリ戦で,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

点数的には「快勝」も課題が目についたチリ戦

ラグビーワールドカップフランス大会が9日(日本時間)に開幕した。10日に行われた日本代表(以下ジャパン)の初戦の相手は唯一の格下チリ(11日現在、ジャパンは世界ランク14位、チリは同22位)。勝利することはもちろん、予選プールを戦うに当たって後々の順位決定に大きな影響を及ぼすボーナスポイントの獲得を含め、勝ち点5の獲得が必須の相手だった。加えて、1勝5敗と大きく負け越したサマーシリーズで浮き彫りとなった改善点の修正がどこまでできているかを試す場でもあった。

結果だけみれば42-12で快勝と言ってよい試合ではあったが、課題は多々見受けられた。試合開始直後からチリは意欲的なアタックで、流れを自軍に引き寄せた。ジャパンの密集近辺のディフェンスが固いことを十分に理解した上で、狭いサイドに決定力のあるバックスリーを集めて、そこからの突破を図る。そしてそこからキックをからめてジャパンのキックディフェンスのミスを誘い、先制トライを奪ったのだ。

各プレーヤーの連携が十分にとれていないという、ジャパンの課題が解消されていないことがいきなり露呈してしまった。最初からブラインドサイドの隅の隅を攻められることは予期していなかったのだろう。誰がどのゾーンを守るべきかの連携がとれておらず、やらずもがなの得点を与えてしまい、チリを勢いづけてしまった。初戦の緊張下にあったとはいえ、先制点を許す悪癖は解消されていない。

この後のキックオフからノーホイッスルトライを取り返したのは見事だった。チームを落ち着かせる効果は十分にあった。ただし、これは相手がチリだったからこそできた挽回で、ランキング上位国との対戦であれば、ゲームの流れをそのまま持っていかれ、あっという間に大差をつけられた可能性は十分にある。

前半はチリの健闘の方が目立ったし、その健闘に押されてか、ジャパンはミスが目立った。 特に問題視したいのは、必殺技の一つであるはずのラインアウトモールで、押しきって得点するどころか2度もボールを奪われてしまったこと。2度ともあと少しでゴールラインというところまで押し込みながら、モールを組んでいたプレーヤーの結束が完全にバラけ、ボールを持ったプレーヤーが孤立。そこに相手プレーヤーが殺到してボールをとられてしまった。

攻め込んでいてのこのターンオーバーはチームの士気を下げ、体力も奪う。試合直前の姫野の怪我で急遽メンバー入りした選手、また当初予定のポジションではない位置で出場した選手がいたとはいえ、モールの結束はFWプレーの基礎の基礎のはずだ。本番でのミスは、今後の戦いに大きな不安を残した。

FW、BKともに連携に大きな問題があることを露呈したが、これはやはり、チームとしての出発が遅く、十分に熟成できていないということに尽きるだろう。今さらどうなるものではないが、次回以降のW杯ではより早期からのメンバー選抜とチーム作りを願いたい。W杯イヤーならびにその前年くらいは、W杯の合宿から逆算してリーグワンの日程を決めるくらいのスケジュール感で臨むべきだ。

次戦に向けて見えた三つの光明

多くの課題が露呈したチリ戦ではあったが、光明もあった。

一つ目はSO松田力也のゴールキックが復活したことだ。元々昨年のリーグワンで成功率85%以上を誇る最優秀キッカーだが、サマーシリーズ、とりわけ最終戦のイタリア戦でのキックミスが直接敗戦に結び付いたこともあって、彼のキックの精度を危ぶむ声は大きかった。しかし、この試合は6本のコンバージョンキックをすべて成功させた。かなり難しい角度のものも決めていたので、復調したと考えてよいのではないか。

次戦イングランド戦で勝機を見出すには僅差で食らいついていく必要があるため、PG、コンバージョンキックともに確実に決めることが要求される。イングランドのSO として出場が濃厚なフォードは、アルゼンチン戦で6本のPGと3本のDGを決め、全27得点を叩き出した。松田にも同じレベルのキック成功を望みたい。

二つ目は「代役の代役」として出場した、アマト・ファカタヴァの機動力。彼は一度代表スコッドから外れたが、体調不良の選手が出たことで大会直前に追加召集され、チリ戦はキャプテン姫野の試合直前の負傷により急遽出場が決まった選手だ。

この試合はLOで出場したが(姫野のポジション、ナンバーエイトは当初はLOで出場予定だったジャック・コーネルセンが務めた)、「本職」である第三列のポジションに求められる機動力を遺憾なく発揮して2トライを挙げ、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍を見せた。世界屈指のスクラムの強さを誇る、イングランド、アルゼンチンとの対戦においてはスクラムの安定性にやや不安が残るものの、その不安を補って余りあるほどの機動力を発揮して欲しい。

三つ目は、まだBKが手の内を全部みせていないと考えられること。チリ戦は前半こそかなりFW戦で後手に回ったが、相手FWに2度シンビンが出てスタミナ切れを起こしたこともあって、後半からはセットプレー、ブレイクダウンともに上回った。

そのため、人数が余ったり、密集近辺のディフェンスに穴が空いたりして、BKが意図的に何かを仕掛けて相手のディフェンスラインを崩すという場面が見られなかった。フェイズを何度か仕掛けているうちに勝手に穴があき、そこをプレーヤー個々の判断で突いたらトライがとれたという場面が大半だった。

イングランド戦では、決定力のある、ナイカブラ、マシレワ、松島にテンポよくボールを回し、広いスペースを与えて走らせることで、相手の数少ない弱点の一つであるバックスリーのディフェンスの弱さを突いていきたいところだ。

イングランドに死角はあるのか

予選プールは残り3戦、相手は格上(イングランドの世界ランクは6位、アルゼンチンは10位、サモアは11位)ばかりで楽な試合はひとつもないといってよい。初戦では最大の勝ち点を獲得することはできたが、次のイングランド戦は早くも予選プール最大の大一番となる。

そのイングランドは、予選プールの中で最強の敵アルゼンチンといきなり初戦から激突。しかも開始3分でレッドカードが出て残りの長い時間を14人で戦わないといけないというハンデまで背負ってしまった。前回の2019年大会でもこの両国は予選プールで対戦しているが、その時はアルゼンチンの方にレッドカードが出て39-10とイングランドが人数の優位性を活かして快勝した。

ただでさえ主将のファレルを出場停止で欠き、苦戦が予想されていたイングランドだが、この日は気迫が違った。一人少ないというハンデを感じさせない分厚いディフェンスでアルゼンチンの攻撃をことごとく止め、接点でのコンテストではアルゼンチンの弱点である「反則」を数多く引き出したのだ。そして、得たペナルティーの機会はファレルの代役フォードがことごとく決めて点差を広げていった。

アタック面では、トライを奪いにいくことを捨て、ボールの保持に徹し、得点はフォードのドロップゴールという飛び道具を駆使して得た。自分たちの強みと弱みをグランド上のすべてのプレーヤーが瞬時に理解し、トライを取ることを断念してキックでの得点に特化したゲームマネジメントは素晴らしいの一言に尽きる。この日のような戦い方を徹底されたら、正直、ジャパンの勝利は難しい。

ジャパンとしては、相手FWのプレッシャーをうまくかわして、フィジー戦でディフェンスの弱さを露呈したSOフォードにディフェンスさせる場面を増やしたいところだ。フォードのフィールドプレーでの仕事量を増やすことはキックの成功率を下げることにもつながるだろう。

すべての戦い方の根本となるのはセットプレーの安定だ。スクラムでのバトルに負けないこととともに、ラインアウトでのマイボールの保持と、ボールキャッチからのモールプッシュは大いに活用したい。トライに直接つながるプレーでもあるし、相手FWの脚を止めることにもつながり、その後のBKの展開も有利になる。ジャパンFW陣はイングランド戦までの残された時間を、ラインアウトからのモールの練習にすべて費やすくらいの覚悟を持って修正することが必要となるだろう。

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