10月29日にテストマッチ
日本ラグビー協会は10月29日にラグビーニュージーランド代表(以下オールブラックス)と日本代表(以下ジャパン)がテストマッチを行うと発表した。2018年11月(69-31でオールブラックスの勝利)以来4年ぶりとなる今回は、ジャパンが2019年のW杯で8強入りしてティア1と認められてから初の対戦となる。
日本ラグビー協会は10月29日にラグビーニュージーランド代表(以下オールブラックス)と日本代表(以下ジャパン)がテストマッチを行うと発表した。2018年11月(69-31でオールブラックスの勝利)以来4年ぶりとなる今回は、ジャパンが2019年のW杯で8強入りしてティア1と認められてから初の対戦となる。
世界各国のチームにすべて勝ち越し、圧倒的な戦績を誇ってきたオールブラックスだが、近年は低迷期と言える状態が続いている。2019年にイアン・フォスター氏がヘッドコーチに就任してから、W杯で優勝を逃したのがケチのつき始め。2020年にはトライネーションズでアルゼンチンに初勝利を献上し、2021年には秋の北半球遠征でアイルランド・フランスに連敗した。
そして今年7月に行われた対アイルランド3連戦では、相手をホームに迎えての有利な条件下で、初戦こそ勝って2021年からの連敗を2で止めたが、その後2連敗して1勝2敗と負け越した。なお、アイルランドには2016年に初勝利を許して以降、3勝5敗と負け越している。この2連敗で、ニュージーランドは世界ランキングを同国史上ワーストタイとなる4位に落とした。
8月6日には敵地南アフリカに乗り込んで、同国代表スプリングボクスとの「ザ・ラグビー・チャンピオンシップ」開幕戦に臨んだが、FW陣がスクラムで完全に劣勢に回るなど、まったくいいところがなかった。
浅いフェイズの際にFWが固まって前進しようという試みが、従来のオールブラックスでは考えられないような速さでことごとく止められた。フィジカルバトルでも後手に回ったオールブラックスは、体のでかい第一列、第二列の選手にパスした後、ボールを受けた選手がそのまま突っ込まずに、ほぼ真後ろにいるBKの選手にパスして、その後の展開を図るという策に出たが、そもそもこの策はFWが前に出てきても互角以上に戦えるからこそ効くのだ。
FWが力負けしたこの試合は、勢いのついたスプリングボクスディフェンス陣のタックルにBK陣も面白いようにつかまり続けたし、キャッチミスによるノックオンも多発した。点差こそ10-26と大きくはなかったが、内容的には完敗と言っていい試合だった。
この試合に負けたオールブラックスは1998年に5連敗を喫して以来24年ぶりの3連敗となり、世界ランキングも同国史上ワースト更新となる5位に転落。ラグビーが「国技」であるニュージーランドではイアン・フォスター氏の更迭を求める声が日に日に高くなった。
8月6日の試合の出来ならば、10月のテストマッチで素早いディフェンスが身上のジャパンが勝つ可能性は十分にあるかに思えた。しかし、8月13日の試合、オールブラックスは3連敗中のチームとはまるで別物のチームに変化していた。
浅いフェイズでFWがきちんとバトルを仕掛けて、しかも力負けしていなかったのだ。スプリングボクスのディフェンスは、フィジカルの強い個々のプレーヤーが規律を守った上で、相手の突進を何度でも止め続けることが特色で、別名「緑の壁」と呼ばれる。
オールブラックスはそれこそ、数十センチ単位で相手が一番力を出せるポイントをずらし続け、それを持続することで、「緑の壁」を正面から突破するのではなく、その力をそらすことに成功した。
「絶対に負けられない」という気迫と、それこそ真横で見ていないとわからないような数十センチのずらしをチームとして継続する技術、そしてそのずらしをフォローするスピードが最後まで落ちなかった。1週間でそこまでチームを変えてしまえる指導力は王国ならではのものである。
後半、残り15分というところで、ボーデン・バレットが自陣ゴール前で反則を犯し、イエローカードで10分間のシンビン(一時的退場)を宣告された上に、PGで逆転され、この試合初めてのリードを許した。3連敗中という悪いチーム状況なら、ここで「負け」を予期して士気が落ちてもおかしくなかったが、この日のオールブラックスの勝利への執念は恐ろしいばかりだった。
一人少ない状況にもかかわらず、果敢にバトルしてボールを保持したオールブラックスは、前半のFWの頑張りに報いる、とばかりにCTBリーコ・イオアネのビッグゲインから、フォローの選手に次々とパスがつながり、再逆転のトライを挙げたのである。結局終了間際にもトドメのトライを奪ったオールブラックスが35-23で勝利し、連敗を3でストップさせた。
やはり「王国」の底力は侮れない。8月13日のようなプレーをされたら、世界中でオールブラックスにかなうチームはないだろう。
現時点での注目選手はまず、ボーデン(SO、FB ブルーズ)、スコット(LO クルセイダーズ)、ジョーディー(FB、WTB)のバレット3兄弟だろう。最年長(5人兄弟の次男)ボーデンは2020-21年シーズンはトップリーグのサントリーサンゴリアス(現東京サントリーサンゴリアス 以下東京SG)に所属し、そのシーズンの得点王に輝いたことは記憶に新しい。
次兄のスコットはスーパーラグビー屈指の強豪チームクルセイダーズのキャプテンを務める。末弟ジョーディーもここのところの試合ではほぼスターティングラインナップに名を連ねる存在だ。この3人は2019年のラグビーW杯日本大会のカナダ戦で、3兄弟全員が先発出場し、3兄弟全員がトライを挙げたという、世界で唯一の記録を持っている。
日本にゆかりの深い選手としては、アキラ(FL ブルーズ)、リーコ(CTB ブルーズ)のイオアネ兄弟も忘れてはいけない。この兄弟の父親エディー・イオアネはサモア代表のラグビー選手で、日本のリコー(現リコーブラックラムズ東京)に所属していたことがあり、日本への思い入れが半端ではない。
兄アキラは当時のリコー監督水谷眞氏のご子息の名前にちなんで名づけられた。また弟リーコは、やはり水谷氏のご令嬢の名前レイコと所属チームであったリコーとにちなんでいる。
兄アキラは攻守ともにどこにでも顔を出す、典型的なNZの第三列のプレーヤー。弟のリーコは元々WTBだったこともあり、相手ディフェンスを一気に置き去りにするスピードを持ち合わせ、接点でのファイトにも強いCTBである。両者ともに、現在のチームには欠かせない中核選手である。
その他、今回の代表スコッドには入っていなかったが、やはり日本でのプレー経験があるTJペレナラ(SH ハリケーンズ)、ダミアン・マッケンジー(SO、FB チーフス)の二人も、今後の代表チームの動向いかんでは復帰の可能性がある。
2020-21年シーズンで、下位に低迷していたNTTドコモレッドハリケーンズ(2022-23年シーズンより浦安D-Rocksに統合)を5位に躍進させたTJペレナラは、パス捌きだけでなく、自らボールを持って密集近辺を駆け抜けるサイドアタックやインターセプトなどで、一気に試合をひっくり返すようなプレーのできる選手として待望論が強い。
プレースキック前に必ずニヤリと笑うことから「微笑みの貴公子」と呼ばれるダミアン・マッケンジーは2021-22年シーズンは東京SGに所属し、リーグワン初代得点王に輝いた実績の持ち主。2019年のW杯は、じん帯の大けがで出場を断念したという経緯もあり、秋シーズンからのオールブラックス復帰を虎視眈々と狙っている選手だ。
「ザ・ラグビー・チャンピオンシップ」はオーストラリア、アルゼンチンと各2試合づつ、計4試合残っている。今回の勝利でオールブラックスが息を吹き返すのか。それとも、単なる「小康状態」だったのか。当面はニュージーランドの試合から目が離せない。
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