小池都知事も夏開催の「限界」を問題視
新型コロナウイルスの感染拡大で東京オリンピックの開催を危ぶむ声が広がっている。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は2月27日、予定通り実施する意向を表明し、不安の打ち消しに躍起だが、そもそも五輪はなぜ、炎天下の真夏に実施されるのだろうか―。
熱中症で倒れる選手や観客が続出するケースも懸念され、台風やゲリラ豪雨などに見舞われる可能性もある。アスリートファースト、観客ファーストを考えれば、不思議なことだ。思えば1964年東京五輪は秋晴れの下、10月10日の開会式で開幕している。
IOCは東京の酷暑を懸念し、開幕まで1年を切ってマラソンと競歩の札幌移転を急転直下で決めたばかりだが、東京都の小池百合子知事は近年の気候変動を例に挙げ「7~8月の実施では北半球のどの都市でも過酷な状況だ」と限界を指摘。現在の五輪のあり方そのものに疑問を投げ掛けた。
計10大会で1兆円超、絶大な米テレビ局の意向
IOCは2020年五輪の開催都市を募る際、会期を「7月15日~8月31日」の間に設定するよう求めている。背景には巨額の放送権料を支払う米テレビ局の意向が根強くある。
2014年の長期契約は驚きの額だった。IOCは2022年冬季五輪から2032年夏季五輪まで夏、冬合わせて6大会の米国向け放送権をNBCユニバーサル(NBCU)が一括して76億5000万ドル(約8400億円)で獲得したと発表。NBCUは2014年ソチ冬季五輪から2020年東京五輪まで計4大会の放送権を43億8000万ドル(約4800億円)で獲得しており、合わせて計10大会で約120億ドル(約1兆3000億円)と天文学的な数字だ。
7~8月の時期は五輪以外に世界的なスポーツイベントが少なく、米プロバスケットボールNBAや米プロフットボールNFLなどのシーズンとも比較的重ならない利点もある。絶大な権力で財政を支える米テレビ局は五輪の日程に大きな影響力を発揮しており、競泳やバスケットボールで東京五輪の午前中に決勝が組まれるのも米国向けテレビ放送の「ゴールデンタイム」に合わせた時差の影響がある。
地球温暖化、マラソンは冬季に移行?
こうした事情で近年の五輪は7~8月が基本だ。2016年夏季五輪招致では、酷暑を避けるため10月開催を提案した中東ドーハが1次選考であっさり落選している。
東京は2020年招致で「温暖で理想的な気候」などと「現実離れ」したPRをして開催を勝ち取った経緯もあるが、最近は地球温暖化や異常気象で夏場の高温が世界各地で続いている。昨年の欧州は熱波に見舞われ、2024年の開催都市パリは7月に過去最高の42.6度が観測された。もはや小池知事が言うように「限界」が来ているといえるのだ。
そこで関係者の間で今話題となっているのは、夏季五輪の一部競技を冬季五輪に移すアイデア。これは猪谷千春IOC名誉委員が以前から提案しているものでもあるが、例えばマラソンや競歩を冬季五輪に移すのはどうだろうか。東京マラソンは2月か3月の冬季実施であり、世界6大マラソンと呼ばれるベルリン、ロンドン、ニューヨークシティーなどはいずれも春か秋の開催。この時期なら熱中症の心配もなく、路面凍結や低体温症という別の課題はあるものの、冬季五輪への移行は全く荒唐無稽な話でもない。
夏季五輪の開催都市は2028年ロサンゼルスまで決まっているが、近年は招致熱も冷え込んでいる。五輪改革を進めるIOCもそろそろ秋も含めた開催時期の見直しや冬季五輪への一部移行など抜本的な改革に本腰を入れる時が来ているかもしれない。
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