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進化を続けるボディビル、フィジークのかけ声 「キレてる」はもう古い?

2019 11/27 17:00SPAIA編集部
ボディビルイメージ画像Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

かけ声は審査員へのアピール

鍛え上げられた筋肉の美しさを披露するボディビルやフィジークといった競技は、マイナーながらもディープな魅力があり、多くのファンを掴んでいる。肥大化させた筋肉をキープしたまま、極限まで脂肪を削ぎ落した体は、人間のものとは思えない、彫刻やダイアモンドのような美しさを持つ。

大会では、美しさを審査員に示すために様々なポージングを決めるが、そのチャンスは多くの大会で1度だけ。しかも、短時間で同時に10人以上を審査する場合もあるので、審査員の目が全員に行き届かないことも起こりえる。そこで応援する選手に、審査員が目を向けるよう観客からアピールする手段が、かけ声だ。

失敗の許されない一発勝負に、鬼気迫る覚悟で臨んでいる選手たち。そんな出場者に、観客は精一杯の声援を送り大会を盛り上げる。だが、一生懸命な気持ちが強くなりすぎた結果なのか、審査員の興味をひくためにインパクトを狙いすぎた結果なのか。最早いったい何を伝えたいのか、褒めているのかさえも分からないかけ声まで次々と生まれている。

この記事では日々進化を遂げるボディビル大会での選手へのかけ声の中から、定番から一風変わったものまで、その一部を紹介する。

定番のかけ声「デカい」「キレてる」「ナイスバルク」

「デカい」
文字通り筋肉が大きく分厚いことをストレートに表現したかけ声。巨大な筋肉を持つボディビルダーやフィジーク選手たちの中でも、特に大きいと審査員にアピールし称賛するために、選手の番号を前に付けて「〇番、デカいよ」のように使われる。

「キレてる」
筋肉のカットが鋭く深いことを示すかけ声。筋肉を増やし、極限まで脂肪を落とすことで、ポージング中の選手の体には、セパレーション(筋肉と筋肉の境目)やストリエーション(筋線維の束が肌の上からも見えるようになったもの)が彫刻のようにはっきりと浮かび上がる。それが優れていることを「キレてる」と表す。

「バリバリ」
大会に臨むボディビルダーたちは、筋肉の輪郭が分かるように、脂肪だけでなく水分も極限まで減らす。その結果、筋肉に直接皮膚が張り付いたような状態になり、すじや血管が浮き出ている様子を「バリバリ」と表す。仕上がり具合が良いことをほめたたえるかけ声。

「ナイスバルク」
筋肉を大きくして体積を増やしていくことをバルクアップと言う。選手たちが日々のトレーニングや食事制限によってバルクアップした見事な肉体と、こつこつと積み重ねた努力を称える気持ちが「ナイスバルク」の一言に込められている。

一風変わったかけ声「もうデカい」「大胸筋が歩いている」「大根すりおろしたい」

「もうデカい」
大会ではポージングを行うことで、対象となる筋肉を強調して大きさをアピールするのだが、この掛け声はポージングに入る前にかけられる。応援する選手がポーズをとらなくても既に「もう」大きさが分かるくらい素晴らしいという、憧れと羨望が入り交じった表現だ。

「大胸筋が歩いている」
本来大胸筋は胸の筋肉なので、当然自ら歩くことはない。しかし、鍛えに鍛えた大胸筋が、その人そのものに見えるほど強烈な存在感を示している。例えば、人となりを表すのに、「〇〇が服着て歩いてる」という比喩があるが、「大胸筋が~」もこれに似た擬人法で褒めたたえている。

「大根すりおろしたい」
わき腹を覆っている外腹斜筋を鍛えると、洗濯板のような凹凸が見えるようになる。その凹凸で、洗濯ができるどころか、大根がすりおろせてしまうのではないかと思わせるほど、深いカットと仕上がりになっていると表現するかけ声。

テレビや漫画から有名になったかけ声「ちっちゃいジープ」「眠れない夜も」「鬼の顔」

「肩にちっちゃいジープ乗せてんのかい」
2017年の関東大学選手権でのかけ声が、テレビ番組や雑誌などで紹介され有名になった。巨大な僧帽筋と三角筋であることを、「ちっちゃい」とはいえ車、しかもゴツいジープと見紛うほどだと称賛している。

「そこまで絞るには眠れない夜もあっただろう」
テレビ番組「ジャンクSPORTS」で紹介され有名になったかけ声。極限まで絞るためには大きな負荷を掛けることや、徹底した食事制限が必要だ。それゆえ、追い込まれた体が緊張状態から解放されず、ぐっすり眠れない日もあるという。その努力に思いをはせ、たゆまぬ研さんを積んだ肉体を称えている。

「背中に鬼の顔」
格闘漫画「グラップラー刃牙」から生まれたかけ声。僧帽筋や広背筋といった背中側の筋肉がしっかりキレた状態になり、はっきりと輪郭が現れている様子を表す。

「胸がケツみたいだ」
こちらも同じく「刃牙」から生まれたかけ声。バルクアップの果てに胸の中心から真っ二つに割れた巨大な大胸筋であることを表現しており、特に、力を入れていない状態では弛緩した筋肉が丸みを持つのでその様子を賛美していると思われる。

かけ声から入るのもあり?

ボディビルやフィジークの大会を盛り上げるかけ声には、なるほどと思わせるものから、褒めているのか一瞬考えてしまうものまで様々だ。ここで紹介したものはごく一部で、シーズンに入る5月になればまた新しいかけ声が生まれるだろう。

ディープでマニアックな競技だと思われがち、そこで飛び交う言葉は更にマニアック。とはいえ、その言葉は選手を応援し大会を盛り上げようとする観客の気持ちから生まれており、ボディビル大会は観客も参加して作り上げていく一面も持っている。

本来、ボディビルやフィジークは鍛えた筋肉の美しさを披露する競技だが、実際のかけ声を聞くために会場に行ってみるのも面白いかもしれない。会場を出るころにはかけ声だけではなく、鍛え抜かれた筋肉の虜になっているかも。