東京五輪で新採用、起源は米国の遊び
東京五輪の追加種目として新たに採用されたスケートボードは日本で「スケボー」と呼ばれ、車輪が付いたデッキ(板)に乗ってトリック(技)の難易度や高さ、スピードを競う採点競技だ。オーリー(ジャンプする技)、空中動作、最大の見せ場となるフリップ(回転技)などがある。
起源は1940年代に米国の西海岸で木の板に鉄の車輪をつけて滑った遊びが始まりとされており、1980~90年代に音楽やファッションの文化とも融合して若者に人気となり世界に広まった。
五輪で実施されるのは二つ。街の手すりや階段、縁石、斜面などを模したセクション(構造物)を使って技を繰り出す「ストリート(STREET)」と、おわんを組み合わせたようなコースを滑ったり跳んだりする「パーク(PARK)」だ。板をレールや縁石に乗せて滑る「スライド」という技や、板と車輪をつなぐ金属部分のトラックを当てて滑る「グラインド」という技が一般的。
9月の世界選手権では13歳の岡本碧優(みすぐ=Proshop Bells)がパーク女子の頂点に立ち、10代を中心に日本勢が世界の表彰台を席巻する大躍進で五輪メダルへの期待が高まっている。
ストリートは堀米雄斗の独創性を世界も称賛
軽快なBGMが大音量で流れる開放的なムードの中、選手が華麗なトリック(技)を決めると、メイク(技の成功)を称賛する観客の大歓声がわき起こる。スケボーで最も重要なのがこのトリックだ。審判員は難易度、メイク率、ルーティーン(構成)、スピード、オリジナリティ(独創性)などを総合的に評価して10点満点で採点する。
そのトリックの独創性で10代から世界のスケボー界に衝撃を与えてきたのが20歳の堀米雄斗(XFLAG)。東京五輪でも金メダル候補だ。
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ストリートは45秒以内にコースを自由に滑って技を連発する「ラン」を2回、一発技を競う「ベストトリック」を5回行い、得点の高い4回の合計点を争う基本ルール。「9クラブ」と呼ばれる9点台を出した選手は注目度が一気に上がるが、同じ技でもスピードや大きさにより差がつく。
堀米は動画投稿サイト「ユーチューブ」で主に1990年代のスケーターを見て技を考案。オーソドックスな前足ではなく後ろ足から板ごと跳ね上がる「ノーリー」、手すりに乗って板の裏で滑り降りる「リップスライド」、前回りに4分の3回転の「フロントサイド270」など繰り出す技は世界も称賛する。世界最高峰プロツアー、ストリートリーグ(SLS)では独創的なトリックで9クラブを連発し、史上2人目の3連勝を達成した。
パーク男子は平野歩夢が夏冬五輪出場を目指す
技の独創性が求められるのはパークも同じ。直線的なストリートとは違い、パークは曲線的な形状で空中に飛び出すトリックの豊富さや空中で板を手でつかむ「グラブ」といわれるトリックによって難易度が異なる。
選手は持ち時間が45秒与えられ、湾曲したコース内を自由に滑る事が許されている。3回の試技が認められ、最も得点が高かった点数で勝敗が決まる基本ルールだ。
注目はスノーボードで冬季五輪2大会連続銀メダルに輝き、夏冬両五輪出場を目指す20歳の平野歩夢(木下グループ)。技の幅を広げて本格転向1年目から健闘し、完成度を高めれば五輪代表入りも見えてくる。
車輪の金具で滑る「グラインド」と呼ばれる技や板裏面の後部だけで滑る「テールスライド」も上達しており、コース上部の縁「コーピング」での技も光る。進行方向に背を向けるように回り始めて1回転半する「バックサイド540」も得意な技だ。
女子は世界ランキング1位の岡本が独走状態だが、同2位の17歳、四十住さくら(和歌山・伊都中央高)も有力候補だ。同3位で日本人の母と英国人の父を持ち、宮崎育ちのスター選手、スカイ・ブラウン(英国)は「彼女は異次元のレベル」と岡本を称賛する。
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国内のスケボー愛好者は40万人
スケボーは都市型(アーバン)スポーツの一つとして欧米でも人気が高く、五輪離れを懸念する国際オリンピック委員会(IOC)が注目する新規開拓の分野。東京五輪ではバスケットボール3人制、スポーツクライミング、自転車BMXパークといった都市型スポーツの代表格として実施される。手軽に屋外や路上などで楽しめる雰囲気が魅力で、五輪の伝統競技とは観戦スタイルも一線を画し、立ち見の観客も含めて盛り上がるのが特徴だ。
国内のスケボー愛好者は約40万人。そのうち選手として競技会に出場するのは1000人以上で大半が10代といわれており、スマホ世代が動画をチェックしながら、切磋琢磨している。日本から10代のスケーターが次々と誕生する背景にはこうしたすそ野の広がりも大きい。
体操やフィギュアスケートなどは国際競技連盟(IF)が年齢制限を設けているが、スケートボードは年齢制限がない。今後も世界が驚く新星が日本から誕生しそうだ。