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【スポーツ×メディア】第3回 プロ野球のメディアビジネスを考える①

2018 7/13 18:00藤本倫史
野球ボール,お金,ⒸShutterstock.com
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放映権料ビジネスができなかったパリーグ

前回まで放映権料ビジネスについて考えた。今回はプロ野球に的を絞り、パ・リーグとセ・リーグの現状について分析していきたい。

なぜ分けて分析するのかといえば、他のリーグとは異なる特徴があるからだ。確かにメジャーリーグは、アメリカンリーグとナショナルリーグに分かれているが、メジャーリーグ機構が権限を持ってリーグ運営を司っている。他のリーグも基本的な構造は変わらない。

しかし、日本の場合はプロ野球機構が存在するが、権限を持っていない。各リーグで異なる運営をしており、チームによってもビジネス形態が全く異なる。いわゆるチームビジネスでプロ野球は成り立っているのだ。

前回も述べたように、特殊なプロスポーツリーグの形態は、読売ジャイアンツから生み出されたビジネスモデルから現在も大きく変化していない。

プロ野球はジャイアンツ中心とはいえ、1950年から2リーグ制で運営している。いつも日の目をみるのはセ・リーグであるが、パ・リーグもずっと存在している。ただ、パ・リーグの経営は非常に苦しいもので、各球団の親会社が毎年巨額の赤字を補てんしていた。それは親会社にとっても球団にとっても、経営的にリスクを抱えることになる。

その証拠にパ・リーグ6球団の中で1950年から親会社が1度も変わっていない球団は無い。(ちなみにセ・リーグは2球団だけ変わった)その要因として、巨人中心の放映権料ビジネスに入れなかったことが挙げられる。なぜ球団を持つのかといえば、日本社会の中で一種のステータスであったからだ。

しかし、時代が変化し厳しい経営環境が続く中で、1990年代からステータスの効果が低くなった。2000年代前半には近鉄やダイエーが球団経営から撤退。プロ野球人気の失墜が現実的になり、赤字が続いていたパ・リーグの球団は消滅するのかと心配された。

パ・リーグの逆襲

だが、そこからパ・リーグの時代が到来する。12球団2リーグ制が維持され、IT関連企業のソフトバンクと楽天が参入した。この動きがパ・リーグに革新をもたらす。パ・リーグは本来、放映権料ビジネスで儲からないことはわかっていたので、スタジアムビジネスを中心に展開する。

その先陣を切ったのが千葉ロッテマリーンズだ。2006年に指定管理者制度を適用し、お客さんに来てもらうこと=入場料収入を核に、黒字化を目指した。これらの詳細については次回以降の章で述べるが、それを皮切りにソフトバンクや楽天がスタジアムビジネスだけでなく、放映権料ビジネスでも新風を起こす。

その中心になったのが、パシフィックリーグマーケティング株式会社である。このコラムで何回も登場しているMLBアドバンストメディアをモデルに、インターネット動画配信を中心に6球団が出資して設立された会社だ。

この設立に大きく関わったのがソフトバンクである。親会社の得意分野であるIT関連のノウハウを、自球団のためだけでなくリーグ全体を活性化させるために駆使した。また、自社の「スポーツナビ」などスポーツサイトのコンテンツを上手く組み合わせ、軌道に乗せた。それは長期的に見て、リーグが活性化しなければ自球団も利益を上げられないと考えたからだろう。

売り上げは順調に伸び、2007年の約2億円から2015年には15億円以上に伸びた。また、プロゴルフや女子プロ野球にもノウハウを提供し、会社の可能性を広げている。

これからのパリーグの課題

パ・リーグには課題もある。まず売り上げだが、前述したMLBやJリーグの放映権料ビジネスには遠く及んでいない。よりコンテンツやサービスを拡充していく必要があると思うが、私は地上波放送の放映権料ビジネスに手をつけるべきではないかと考える。

無論、地上波放送の中継枠が少なくなっている現状があるが、ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平、そして清宮幸太郎と、スーパースター選手を近年セ・リーグよりも多く輩出してきた。また、スタジアムビジネスでは球場も含めて楽しい演出をしている。さらに2000年代は、日本一の回数がセ・リーグよりも圧倒的に多い。この魅力的なコンテンツを上手くマスメディアにPRし、パ・リーグも放映権料を獲得することが必要ではないか。それは自ずと各球団へ利益をもたらすことにもなる。

それと同時に、国外への放映権料ビジネスも拡大するべきだろう。すでに台湾には進出しており世界展開も考えているが、韓国や中国、さらには野球が盛んである中南米などにも進出することで、将来的なビジネスの広がりが見えてくる。

このように見ると、パ・リーグは閉鎖的なリーグビジネスを何とかこじ開けようとしている。ただ、プロ野球全体として、将来を考えた時にセ・リーグの協力を得なければならない。

次回はそのセ・リーグについて現状と課題を述べる。


【スポーツ×メディア】第3回 プロ野球のメディアビジネスを考える②

《インタビュアープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。