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【スポーツ×メディア】第3回 プロ野球のメディアビジネスを考える②

2018 8/3 18:00藤本倫史
メディア,ⒸShutterstock.com
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独自に成功を収めたセ・リーグ2球団

今回は、セ・リーグについて見ていきたい。前回も述べたように、現在もセ・リーグはリーグビジネスを全く行っていない。これは基本的な放映権料ビジネスの構造が変わっていないからだ。低下しているとはいえ、巨人戦の放映権料ビジネスは生きている。ただ、これに危機感を持った2球団が独自の経営戦略で生き残りをかけた。

まず、一つ目の球団が広島東洋カープである。カープは2004年の球界再編問題時に人気が低迷し、合併話が持ち上がっていた。12球団で唯一、親会社を持たない球団ゆえに経営が非常に苦しかった。だが、その逆境をプラスに考え放映権料が落ちることを見越し、グッズ販売に力を入れた。

なぜグッズ販売に力を入れたかというと、カープはグッズを外注せず自ら企画から販売まで行っていたからである。この手法は在庫を抱えてしまうというリスクがあるのだが、利益は100%自分たちのところへ入ってくる。カープは一商品の数を抑えながら、次々と斬新なアイテムを創り出しグッズのラインナップを増やした。その結果、2004年当時は約2億円だった売上を現在では約50億円まで伸ばしている。(このグッズ戦略について、次回以降で詳しく述べる)2009年にはマツダスタジアムを開場、メジャーリーグ型のボールパークの運営戦略でスタジアムビジネスも行い、全体的な売り上げも伸ばしている。

もう一つが横浜DeNAベイスターズである。2012年に放送局のTBSから携帯電話ゲームサービスを主軸とするDeNAに経営権移行。携帯電話ゲームサービスを主軸とする会社らしくCRMを駆使し、顧客分析をしっかりと行ったことで経営が向上した。
DeNAが参入する前年度の2011年は約24億円の赤字を抱えていたが、2016年には約5億円の黒字を出している。この黒字化には顧客分析の他に、2015年に横浜スタジアムの球場運営会社から株を買い取り、自前のスタジアムにしたことが大きく影響している。 つまり、ベイスターズもスタジアムビジネスに力を入れた。(こちらの流れも次回以降で詳しく述べる)

セ・リーグ6球団のインターネット動画配信サービスの比較

このようにセ・リーグにも、危機感を感じ改革を行っている球団がある。だが、リーグビジネスに関しては全く行っておらず、前述したように地上波放送のビジネスに関しては動きも見せない。ただ、放映権料ビジネスの低迷により、BSやCS放送でのチャンネルは増えている。そして、インターネット動画配信サービスに関しては、各球団独自の動きを見せている。この動きを見ていきたい。

自球団で動画配信サービスを行う媒体を持っているのは、ジャイアンツとタイガースである。読売ジャイアンツは、グループ会社である日本テレビが運営する日テレオンデマンドでジャイアンツLIVEストリームを開設。そして、2016年からアメリカの動画配信サービスHuluと日本テレビが提携し、Huluでも巨人戦を放送開始した。阪神タイガースは、全国にファンを持つローカル球団である。ゆえに、放映権料やグッズなどのコンテンツ部門も早くから親会社である阪神電鉄が出資し、2002年に阪神コンテンツリンクという会社を設立した。そこで独自に放送部門を作り、2012年から虎テレというサービスを開始している。

その2球団と対照的に外部媒体を積極的に活用しているのが、横浜DeNAベイスターズだ。参入した2012年からニコニコ動画で全試合を放送し、2016年にはDAZN、2017年にはAbemaTVでも放送を開始している。ここでも新興球団、しかもIT関連企業なので他球団とは違う動きを見せている。

次に、スポンサーとの兼ね合いで特殊な動きを見せているのが、中日ドラゴンズと東京ヤクルトスワローズだ。
中日ドラゴンズは読売ジャイアンツと同じく、マスメディアを親企業としているため動きが鈍かった。しかしキャンプやオープン戦に限り、2012年からUstreame、2015年からはニコニコ動画で放映を開始している。東京ヤクルトスワローズは国鉄時代からフジサンケイテレビグループと結びつきが強く、インターネット動画配信よりもCS放送のフジテレビONEで放送されるSwallows Baseball L!veに力を入れ、コンテンツを充実させてきた。

最後に地域密着型の広島東洋カープである。広島は苦しい時代も支えてきてくれた地元放送局に配慮し、インターネット動画配信には消極的だった。そのため、地元の中国放送主催の試合を20試合ほど中継をしてきただけだ。しかし、2017年からDAZNと契約を結び、配信を始めた。ただ、この配信も広島県内及び一部の地域では視聴ができないことになっている。

改革の必要性

このようにセ・リーグは千差万別であり、特殊な動きを見せている。動画配信サービスに関しては、パ・リーグの成功を見て2017年にジャイアンツとカープを除く10球団がスポナビライブで中継を始め、2018年にはジャイアンツを除く11球団がスポナビライブから委譲されたDAZNが放送を開始している。ただパ・リーグと違い、各球団ごととの契約のためカープのような配信制限もある。

そうするとJリーグのように大型の契約も結べず各球団の経営努力だけになり、収入が限られてしまうことでビジネスの拡大ができなくなってしまう。現在のスポーツ界を見ると、リーグビジネスとチームビジネスを上手く差別化しビジネスを拡大している。もちろん、全て真似ることは意味がなく独自性も出さないといけないが、いい部分は取り入れていく必要がある。プロ野球も本格的にリーグビジネスについて考えなければならない時代になっている。

次回は放映権料ビジネスを軸に、プロ野球のリーグビジネスについて考える。

《インタビュアープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。