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【スポーツ×メディア】第2回 スポーツとメディアの課題と展望②

2018 6/29 18:00藤本倫史
田中彰氏,ⒸSPAIA編集部
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ⒸSPAIA編集部

【スポーツ×メディア】第2回 スポーツとメディアの課題と展望①


今回は、「スポーツ×メディア」について、前回に引き続き、大阪産業大学・田中教授に、スポーツとメディアの今後の展望について伺う。

―新興勢力であるインターネット媒体などが多様化し、厳しい現状です。放送局は何か対策を始めているのでしょうか?

今春から在京民放キー局は、リアルタイム視聴率だけでセールスを行わなくなりました。録画視聴者が多くなったことを踏まえ録画でもCMを見た人を合算し、リアル+録画視聴率の合算値をセールス指標にしています。これは従来型のCM枠セールスが厳しくなっている表れであり、メディア価値の再考が行われ始めたターニングポイントであること、さらには現モデルに対して救済策が必要とされている現象です。

ただ、これもドラマや一部のバラエティ番組には非常に有効ですが、スポーツ番組は速報ニュース等で試合結果が先に世の中に出てしまうと、録画視聴に対する期待値は低くなるというデータも出ています。放送局の採算性のみを考えると、放送日時の制約が少ない全国ネットのバラエティ系番組を制作し、ゴールデンタイムで放送。そして数か月後に、その番組の再放送を土曜日曜のお昼などに編成した方が短期的な費用対効果は高くなります。

しかし放送局や広告代理店がようやく録画視聴の対策に取り組み始め、地上波放送のメディアの価値を再考し始めたところに、スポーツ番組も今後の可能性を探るべきだと言えるでしょう。

―スピード感が無いように思えます。打開策はあるのでしょうか?

まずは、無料視聴のスポーツ中継に価値を感じるファンをどれだけ減らさずに、新たな取り組みを入れていくことが重要だと思います。夏の甲子園の「バーチャル高校野球」は、放送局が新聞社と一緒に立ち上げたインターネット上のプロジェクトです。各校の過去データと最新の取材力を活かしたチーム情報、そして各大会の中継動画から構成されるプラットフォームを作り、都道府県、出場校単位でのコンテンツを各層のファンが様々な角度からアプローチができるような仕組みです。

このサイトは大手企業から協賛を受け、国内外から多数アクセスがある人気コンテンツに成長しました。また今年からはスポーツブルさんと業務提携し、さらに規模拡大を狙います。これからの時代、キーワードは「連携」。そして地上波放送局だけでなく、それぞれの既存メディアの強みを生かし、ファンを増やしながら事業を進めていくことが生き残っていく術だと思います。

―逆にプロ野球としては、放送局とどう向き合っていけばいいのでしょうか?

仮に現在のビジネスモデルが続くのであれば、価値観の多様化が進む中、プロ野球・地上波放送が昔のように復活することは考えにくいですね。球団も放送権料を売るだけではなく、ファンの裾野を広げる方法をメディア側と一緒に考えていく必要があるのではないでしょうか。地上波中継の数は減少傾向とはいえ無料放送のリーチはまだまだ広く、一方で放映権料は各球団にとって重要な収入源の一つですから。球団も「もっと地上波放送を具体的に利用してやろう!」くらいで丁度良いのかもしれません。

既に各業界でも議論されていますが、私たちが最大の注意をはらうべきなのは、近未来の野球界を支える少年野球人口の急激な減少についてです。私もスポーツ少年団の指導に関わっていますが、わずか数年前に比べチーム数が2~3割も減っている地域もあります。野球というスポーツの素晴らしさを伝える目的に対して、誰もが無料で見ることができる地上波のプロ野球中継をどう活用していくのか。当事者である放送局はもちろん、プロスポーツ界もこれまでの常識から少し離れて試行錯誤を繰り返すべきではないでしょうか。

―最後にスポーツ×メディアの業界は将来、どのように進んでいくべきなのでしょうか?

昨今では、在阪民放局にもホールディングス化の波が来ています。各事業部門を独立させて、今後はそれに応じた人事システムを採用することになるのでしょうか。その環境下で、スポーツ番組もますます採算性とスピード感を求められます。一方でSPAIAさんを始めとした新興勢力のスポーツメディアはデータに特化するなど、自身の得意分野のエッジを効かせながらスピード感が卓越していてその機動力には感動するばかりです。

しかしインターネットメディアについては心配もあります。電通のデータによれば、ユーザーの1回あたりの平均的アプリ起動時間は90秒という非常に短時間になっているようです。この世界観が全てのスポーツコンテンツに該当するとは思いませんが、仮に90秒の世界となると、果たしてスポーツの魅力は伝えきれるのか?との危惧がでてきます。ファンの関心が90秒で構成可能な試合の短いダイジェストと、結果のみの情報にとどまると、本来スポーツが持つ魅力が相当薄くなるでしょう。近未来のスポーツファンの大半は“展開の駆け引きを楽しむことはない”、そんな時代になってしまうかもしれません。

いま、国が取り組んでいるスポーツ文化のレベルを向上させる方向性と逆行する動きですね。だからこそ、例えば、この打者は何を待っているのか、あのプレーはどういうことを考えていたのか。今起きていることだけでなく、こう見たら楽しいという「楽しみ方」を伝えることは非常に重要になります。無料コンテンツの提供者であり、かつじっくり視聴されるメディアである放送局が、その楽しみ方やファン育成を第一に取り組むべきではないかと考えています。放送局は情報のスピードと深さの両立をメディア提携で実現させたいところです。

《インタビュイープロフィール》田中 彰(たなか・あきら) 大阪産業大学 経営学部 商学科 教授。神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程修了。朝日放送(株)にてスポーツ番組を中心に制作・編成・宣伝の業務を歴任。主な担当番組は「阪神×巨人」、「熱闘甲子園」、「長野オリンピック」ほかゴルフやラグビー中継までと多岐にわたる。現在はプロスポーツ経営とリンクした地域市場の創発をテーマに研究を行う。著書として『スポーツの経営史』(関西学院大学出版会)など。

《インタビュアープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。