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【スポーツ×メディア】第2回 スポーツとメディアの課題と展望①

2018 6/25 17:00藤本倫史
田中彰,ⒸSPAIA
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今回は「スポーツ×メディア」について、朝日放送で阪神×巨人戦などのディレクターを担当し、スポーツメディアの現場で活躍された大阪産業大学・田中教授に、スポーツとメディア、特にプロ野球コンテンツの現状と課題について伺う。

まずは、地上波放送に関するプロ野球と放送局についての現状について教えてください。

少し古い話ですが1985年に阪神タイガースが優勝した前後、関西での阪神×巨人戦の視聴率は平均で25%程度もありました。また関東でもプロ野球中継の視聴率は今よりもずっと高水準で、長嶋監督の1994年「メイクミラクル」の頃には巨人戦平均が18%前後でした。この頃はバラエティ番組を始めとしたレギュラー番組を放送するよりも、その都度プロ野球を放送していた方が高視聴率を取れていた時代です。

しかし生活環境の変化などの影響を受けて年々視聴率が下がる中、今年は2ケタの視聴率が1回も無い状況です(関東)。そうなるとスポンサーの立場からすれば広告価値が低くなったように見えますし、放送局もスポンサーがいなければプロ野球中継をペイできなくなります。

当然ながら新たなプロ野球CM枠のセールス等の努力をしますが、放送権料1億円とも言われる巨人戦を放送ビジネスとして成立させるのは、なかなか厳しい現状です。

それでは、なぜ放送局はプロ野球中継を続けるのでしょうか?

各民放がゴールデンタイムで対応する試合数は確実に減っています。数で言えばピークの3~4割程度でしょうか。その理由としては、ゴールデンタイムに生中継をするメリットが減ってきているからと言えるでしょう。

昔よりは少し安価傾向とは聞きますが、今でも巨人戦の権利料は1試合で1億円くらいが相場だと言われています。それに加えて放送局は中継をするための番組制作費も必要で、これが他ジャンル番組の制作費と比較して負担であることは明らかです。

ただひと昔前はゴールデンタイムのセールスをする時に、たとえイレギュラーな単発編成であっても阪神×巨人戦は確実に視聴率25%が期待できて、結果的に同時間帯の平均視聴率が上がりました。スポンサーには高視聴率の時間帯のCM枠を提供することできて、野球編成を組み入れることでセールスがしやすくなるメリットがあったわけです。

しかし昨今は、プロ野球中継の視聴率低下によって、野球を放送すればレギュラー枠の平均視聴率が下がってしまう現象がみられるのです。それでもなぜ中継を続けるかというと、優勝や特別な記録がかかった試合などは視聴率が跳ね上がります。その部分があるので、止めるに止められないとても苦しい状況に放送局はあると思います。

放送局としてはひと昔前まで、プロ野球=キラーコンテンツでしたが、現在は立場が危うくなっているのでしょうか?

放送局としてはなかなかペイができない、取り扱いが難しいコンテンツになっています。視聴率が20%前後あった時代は良かったですが、今はそうではありません。

最近、中継の延長対応も少なくなりましたよね?視聴者としては、最後まで試合が見られない。球団としても、地上波放送される試合が少なくなる。そうなるとBS・CS波などのメディアや、最近ではインターネット動画配信に移行していくのは自然な流れですよね。よって視聴者が一層離れて、視聴率に結びつかなくなる負のスパイラルがみられます。

それでは、地上波放送局として、どうするのか?この打開策にいまだ悩んでいる状況です。これまで高額ビジネスが成り立っていたからこそ手詰まりになっていて、プロ野球球団と放送局の関係や、現状のビジネス構造に生じたギャップを是正したいところです。

放送局としては、その関係や構造を変えていこうとしているのでしょうか?

まさにジレンマの状況が続いています。ハーバード大学教授のC・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」に近い現象が起きていると言えるでしょう。

かつてフロッピーディスク業界では、規模の小さな事業会社から破壊的なイノベーションが起きました。シェアが大きな業界リーダー企業は現状の顧客を大切にするあまり、短期的な改善を中心に持続的なイノベーションに取り組みました。そのまま時は流れ、気が付けば新興企業が行った破壊的なイノベーションに旧リーダー企業はついていけなくなってしまい、業界から退出せざるを得ないという悲劇です。

地上波放送ビジネスにも同じ雰囲気があって、現モデルに拘って一生懸命であるがために、新興勢力に飲み込まれてしまう危険性があると思われます。

つまり、現状のビジネスモデルを短期的かつ連続的に改善しつつ懸命に走りながらも、スポーツの持つ魅力やメリットを考えて、長期的な部分を見て、戦略的にプロスポーツ・コンテンツとどのように関わっていくのかというビジョンを打ち出す必要があると考えています。

次回は、このような「スポーツ×IT」を駆使したライト層への具体的な提案、そして、スポーツ界を担う人材について、熱く議論を行う。

《インタビュイープロフィール》田中 彰(たなか・あきら) 大阪産業大学 経営学部 商学科 教授。神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程修了。朝日放送(株)にてスポーツ番組を中心に制作・編成・宣伝の業務を歴任。主な担当番組は「阪神×巨人」、「熱闘甲子園」、「長野オリンピック」ほかゴルフやラグビー中継までと多岐にわたる。現在はプロスポーツ経営とリンクした地域市場の創発をテーマに研究を行う。著書として『スポーツの経営史』(関西学院大学出版会)など。

《インタビュアープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。