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【スポーツ×メディア】第1回 変わりゆくスポーツとメディアの関係②

2018 6/8 18:00藤本倫史
テレビ映像,ⒸShutterstock.com
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DAZNマネーを考える

今回は、変わりゆく放映権料ビジネスについて、述べたい。前回も述べたように、日本の放映権料ビジネスは一度、崩壊した。

ところがJリーグは、2016年にイギリスのパフォーム社が運営するインターネット動画配信サービスDAZNと、2017年シーズンから10年総額2100億円の放映権料契約を結ぶ。以前は年間50億円でスカパーと契約していたとされているJリーグ。それから考えると単純計算で約4倍の契約料だ。

また、開設したばかりのプロバスケットボールリーグB.LEAGUEもソフトバンクと4年で120億円の契約を結んでいる。ただ、2018年から動画配信サービスはDAZNに受け継がれ、改めてパフォーム社の存在感が日本でも際立っている。
これによりスポーツ界は衝撃を受け、リーグやクラブ経営の観点からは新たな収入源として注目された。同時に日本のプロスポーツコンテンツに海外の企業が価値づけし始めたことも興味深い。

現在、サンフレッチェ広島やコンサドーレ札幌が、タイの有名選手を獲得し、タイへのマーケティング活動を行っている。さらに、ビックニュースとしてスペイン代表のイニエスタもヴィッセル神戸が獲得した。
これまでJリーグはアジアを始めとした世界戦略は掲げていたが、それが少しずつ実行されようとしている。パフォーム社としては、その動きも見据えて投資しているのではないか。そう考えると、日本代表にだけ力を入れた戦略を取る日本の放送局には不安が残る。

海外の放映権料ビジネスの現状

海外ではこの放映権料ビジネスが、よりビックビジネスになっている。下記に示した表1にあるように、プレミアリーグを始めとして、1年間で1000億円以上の収入がある。しかも、プレミアリーグは45億5000万ドルの半分近くは国外からの放映権料収入であり、世界戦略にも成功している。

それでは、野球の世界はどうか。メジャーリーグもプロ野球と同じく1990年代半ばにストライキなどの問題で人気が低迷した。そこで、リーグは考え、リーグビジネスとスポーツメディアとのビジネスを積極的に行った。

メジャーリーグは、2012年にESPN、FOX、TBSと2014年から2021年まで、8年120億ドルの契約を結んだ。これをJリーグやヨーロッパサッカーリーグと同じように全30球団平等に配分し、戦力均等を図り、各球団の競争を激化させた。

さらに、このリーグ収入と並び、ローカル放映権料もメジャーリーグは大きなビジネスになっている。表2にあるように、ロサンゼルス・ドジャースは2013年にタイムワーナーケーブルと契約を結び、年間で300億円以上の収入を得ている。

では、表に掲載されていないニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスの人気球団はどうしているのか?レッドソックスはいち早く、New England Sports Network(NESN)というローカル放送局を1984年に自前で設立した。その流れにヤンキースも乗り、Yankees Entertainment and Sports Network(YES)を設立させた。

ヤンキースやレッドソックスは全米にファンがおり、視聴者が多い。そのため課金収入があるのに加え、別会社にすることでリーグからの課税対象からも外れる。つまり税金対策でもあるのだ。また、同地域の他プロリーグの放送も積極的に進めるなど、球団自らスポーツメディアビジネスを行ってきた。

メジャーリーグの中継を見ていてスタジアムに観客が少ないと感じることがあるかもしれないが、実際は放映権料ビジネスを行うことで右肩上がりの成長を遂げているのだ。

なぜ、このような大きなお金が動くのか?

それでは、なぜこのような放映権料ビジネスが成り立っているのか。「スポーツ中継は究極の生もの」ということが、その答えだ。 ドラマやバラエティ番組を録画し、後で見ても価値は下がらない。ところがスポーツは、リアルタイムで見ないとインターネットを始めとしたメディアで試合結果などが報じられ、途端に価値が下がっていく。(録画している番組だとCMを飛ばし、鑑賞することが多い。)ゆえにスポンサー企業にとって、広告価値が高いことになる。

だから、放送局はプロスポーツと長期の契約を結んでいるのだ。しかしこの状況、私はいわゆる「バブル」ではないかと考える。投資は過当競争になり過ぎており、しっかりとリターンまで考えているのかと懸念している。

既存の放送局が生き残りをかけた証拠でもあるこの収入をリーグやクラブは活かし、次の新たな戦略につなげなければならない。そうしないと未来はない。今回リーグ名が出てこなかったプロ野球は、既に未来が危うくなっている。次回は、このプロ野球のメディア価値や戦略について考えたい。

表1  2017年ヨーロッパ4大リーグ放映権料

表2 メジャーリーグ地元放送局の放映権料上位4チーム

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。