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【スポーツ×メディア】第1回 変わりゆくスポーツとメディアの関係①

2018 6/8 18:00藤本倫史
TV観戦,ⒸShutterstock.com
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巨人の誕生は新聞を売るため?

前回、スポーツ×ITの章で、最後にスポーツサイトについて述べた。現在、WEBメディアはプロスポーツに欠かせない存在になっているが、今も新聞、地上波放送との関係が深い。

なぜなら、プロスポーツそのものが新聞を売るためにできたものだからだ。昭和初期、新聞社は、部数を伸ばすための様々な取り組みをしていた。その中で、関係者が行きついた先が野球であった。当時、人気のあった大学や高校野球をプロ化させ、紙面に毎日載せることで、部数を伸ばしたのだ。

高度経済成長期になりテレビが普及し始めると、テレビ局は視聴者を獲得する必要が出てきた。この時も新聞同様、野球に頼った。結果的に、プロスポーツ、特にプロ野球はマスメディアのお蔭で人気スポーツとなった。

この流れを創ったのが読売グループであり、ジャイアンツが日本ナンバー1のチームになった理由がそこにある。

プロ野球のメディア価値は無くなった?

ニュースやバラエティ番組は、プロチームにとって今でも有益なコンテンツの一つだ。毎日無料で全国の視聴者に自チームの情報を流してもらえるので、広告価値が高い。両者とも、重要なパートナーとして関係を構築している。

ただ、現在は微妙にその関係性が変わってきている。チームを運営する上で放映権料が一番の収入源だったが、(特にセリーグ)、視聴率が下がってきた1990年代に経営が厳しくなった。ここで、チーム経営の基本である「ファンを集め、スタジアムを満員にし、入場料収入を稼ぐ」ことの大事さに気付き、ファンサービスやスタジアムマネジメントに力を入れ始めた。

これはJリーグも同じである。設立当初はサッカーブームがおき、放映権料も高騰したが、1990年代後半にブームが過ぎると、少額の放映権料でしか契約を結べなくなっていった(NHKやスカパー)。

2000年代になると、プロ野球もJリーグもゴールデンタイムに全国放送の地上波で試合中継を行われなくなった。プロ野球中継というコンテンツの価値が低下したのだ。同時に従来の放映権料に頼ったビジネスモデルが崩壊した。

スポーツ中継自体に価値が無くなった訳ではない。サッカー日本代表をはじめ、フィギュアスケート、ラグビー、水泳、体操、陸上などは、ワールドカップやオリンピック本大会だけでなく、予選から中継を行い、高い視聴率を獲得している。

なでしこジャパンが時代を変えた

インターネットの普及と共にグローバル化が進み、スポーツだけでなく様々な娯楽が多様化した。視聴者も簡単に国外で活躍する日本人選手を応援することができ、リアルタイムで感動を味わえる。

グローバル化により人気がでたスポーツとして、思い浮かぶのが女子サッカーだ。それまで、女子スポーツと言えば、バレーボールくらいしか人気が無かった。しかし、女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」は、可愛らしいネーミングと世界に通用する実力で少しずつ注目を集めていった。そして、東日本大震災が起きた2011年にワールドカップを制したのだ。

未曾有の災害に見舞われた日本だったが、ワールドカップ優勝というニュースは、日本中に勇気を与え、感動を呼んだ。日本政府もこの功績を認め、史上初めて、団体として国民栄誉賞を授与している。

女子サッカー同様、これまでマイナースポーツとされていた競技からスター選手が次々と誕生している。プロアスリートとしての道を選ぶ選手も増え、バスケットボールや卓球はリーグ自体がプロ化した。

そして現在、国内プロスポーツの中である変化が起きている。一度、崩壊した放映権料ビジネスが見直されているのだ。スポーツとメディアの関係は変化したが、マスメディアの影響は、今でも間違いなく大きい。

今までは、国内の主要な放送局が、試合価値を決めていた。これを外部の大きな勢力が価値を認め、ビジネスを行い始めたのだ。

次回はそのメディアの分野、「スポーツ×メディア」について述べていきたい。

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。