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アスリートの盗撮被害、ジェンダーに関する問題を改善するための意識改革を

2021 10/6 06:00富田明未
ユニタードで演技する東京五輪体操ドイツ代表のキム・ブイ,Ⓒゲッティイメージズ

Ⓒゲッティイメージズ

アスリートが安心して競技に取り組める環境に向けて

アスリートの盗撮被害や、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は、以前から深刻な社会問題として扱われてきた。今夏、東京オリンピック・パラリンピックが開催されたこともあり、アスリートの盗撮被害に対する問題意識が高まっている。

2020年11月、日本オリンピック委員会を含む7団体が「大会における盗撮防止事例を共有し、各大会での防止策の取り組みを後押しする」と発表。また、今年3月22日には東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会が、性的な目的によるアスリートの撮影を禁止すると定めた。

さらに「主催者からカメラ等による撮影画像の確認行為を求められた際にはこれに応じること」という項目を遵守行為に追加。スポーツ界全体でアスリートが余計な心配をせずに競技に取り組める環境づくりを目指す動きが見られる。

半数超の陸上団体が警察に通報、相談経験あり

陸上界でもアスリートの盗撮被害の撲滅を求める声が上がっており、日本陸上競技連盟は1月から2月にかけて、全国52の関連団体を対象に調査を実施した。

盗撮被害の疑いで警察に通報・相談した経験の円グラフ


調査結果によると、回答した37団体のうち、20団体が過去3年以内に盗撮の疑いなどで警察に通報・相談したことがあるという。中には、大会スタッフが一度に10人以上の盗撮者を発見したケースもあった。

盗撮者等による不審な行動が見られやすい対象の円グラフ


また、盗撮者等による不審な行動が見られやすい対象として、18団体が「大学生以上」、17団体が「高校生」と回答した。

34団体がアナウンスでの注意喚起、30団体が大型スクリーンでの注意喚起、16団体がカメラの持ち込みの申請を行っている。ほとんどの団体が取り組みを実施しているものの、様々な課題が生じているのが現状だ。

例えば、スマートフォンの持ち込みを規制するのが困難なだけでなく、試合の振り返りなどを目的に撮影している選手のチームメンバーなどもいるため、悪用目的か見極めるのが難しい。

しかし、問題を改善するには、撮影を許可制にして一般観覧者の撮影を禁止するなど、具体的な改善策が求められる。

アスリートの盗撮被害が深刻化した背景

アスリートは「美しすぎる〇〇選手」「イケメンすぎるアスリート」などとメディアで表現されることが多かった。ルッキズムにも繋がる問題であるが、消費者の欲望を刺激する表現は、盗撮行為を助長する可能性がある。

さらに、アスリートの盗撮被害は、ジェンダーに関する問題が深く関与していることを忘れてはいけない。女性アスリートについて記載している記事では、容姿やユニフォーム、私生活に焦点が当てられることが多い。

「露出が多いユニフォームで競技に参加している方が悪い」、「男性よりも女性の方が競技力が劣るのだから、人気を出すために露出をするべき」など、明らかに性差別と見られるSNS等のコメントも見受けられた。

性差別といえば、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗元会長が、女性蔑視発言をしたことが記憶に新しい。

今や社会問題となっている盗撮等の被害を減らすには、ジェンダー問題を改善するための意識改革が必要だ。アスリートを性別によってではなく、個人として捉えることで、メディア等における表現に変化が現れる可能性がある。

東京オリンピックに出場したドイツ女子体操選手は、アスリートが性的対象にされることへの抗議の意を込めて、レオタードではなく、露出の少ない「ユニタード」を着用して試合に出場した。世界の舞台で活躍するアスリート自身が意思表示をすることで、問題意識を高めるきっかけになる。

また、研修などを通して、指導者やアスリートに被害状況を認識してもらうなど、大会運営側はアスリートが安心して競技に集中できる環境を整備する必要がある。

さらに、社会全体の問題意識を高めるために、SNSやインターネットを活用して積極的に情報を発信することで、分かりやすく現状について理解してもらうことが重要なのではないだろうか。

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