高橋尚子や大迫傑も取り入れた高地トレーニング
マラソンなどのスタミナが必要となる持久系スポーツのトレーニングとして、しばしば高地トレーニングが有効であることを耳にする。
2000年のシドニーオリンピックで陸上日本女子で初めて金メダルを獲得した高橋尚子は、オリンピック前の強化トレーニングとして、標高3500mのアメリカ・コロラド州ウィンターパークで24kmの山地を全力で駆け上がるトレーニングを課して力をつけた。
また、今年8月の東京オリンピックのマラソンで日本人男子最高の6位に入賞した、前マラソン男子日本記録保持者・大迫傑も高地トレーニングを積極的に取り入れてきた1人だ。
東京オリンピックの代表選考会を兼ねた東京マラソンの3カ月前からマラソンの聖地と言われる標高2400mのケニアのイテンという町で高地トレーニングを行った結果、2時間5分29秒の日本最高記録(当時)を樹立した。
これまでの陸上トップ選手の活躍を見ても、高地での持久系トレーニングの効果の高さがうかがえる。事実、マラソンなど長距離走で世界のメダルを独占するケニアやエチオピアは標高が高く、日頃から高地トレーニングを積んでいるのだ。
しかしながら、高地トレーニングはなぜこれほどまでに心肺機能の向上に効果的なのだろうか。
酸素濃度の低下によるヘモグロビン濃度増加・毛細血管の発達
高地トレーニングが持久力向上に有効である理由は酸素濃度の薄さが関係する。標高0mの位置の酸素濃度が100%とした場合、100m標高が上がるにつれて酸素濃度が約1%ほど低下するとされる。
そのため、標高が1000m、2000mと上がるにつれて酸素濃度も10%、20%と低下して、体に取り入れられる酸素量も少なくなる。
低酸素の環境に対して、人は体内で赤血球のヘモグロビン濃度を増加させ、スムーズに体に酸素供給ができるように適応する。また、低酸素の環境下では骨格筋の毛細血管の発達や酸素貯蔵体であるミオグロビン濃度が増加するなど酸素をより効果的に利用できる能力が改善され、競技力の向上につながるのだ。持久力が重要な競技にとって高地トレーニングは最適と言えるだろう。
さらに、高地トレーニングの恩恵を受けるのは、何もトップアスリートだけではない。体を引き締める際のダイエットにも適している。
低酸素状態でのトレーニングは、細胞内のエネルギー供給に重要な役割を果たすミトコンドリアを活性化させ、脂肪燃焼効果を高めて痩せやすい体になるのだ。
低酸素ジムで高地トレーニング
トップを目指すアスリートや効率的にダイエットに取り組みたい方は、高地トレーニングを取り入れていきたい。
一般的な高地トレーニングでの標高は1300m〜2000mでのトレーニングが理想とされているが、「高地」と言っても必ずしも山を登る必要はない。最近は「低酸素トレーニングジム」が増えている。痩せやすい体になれば、あとは、いつも通りの持久系トレーニングを行うだけで効果的に持久力の向上やダイエット効果を得られるだろう。
トレーニング2日後をピークに赤血球が増加し、4日間程度はミトコンドリアが活性化し続けることが明らかとなっているため、トレーニング頻度は週に2回ほどが推奨される。
注意点としては、日頃あまりトレーニングに取り組まない初心者の方は、まずは平地でのトレーニングを積んでから徐々に高地トレーニングに移るようにしていきたい。
また、負荷を上げようと、あまりにも高い標高でトレーニングを行うと低酸素による貧血や高山病を引き起こす恐れがあるため注意が必要だ。効率的に体を鍛えられる高地トレーニングを日常的に取り入れていきたい。
《ライタープロフィール》
近藤広貴
高校時代にボクシングを始め、全国高校総体3位、東農大時代に全日本選手権3位などの成績を残す。競技引退後は早稲田大学大学院にてスポーツ科学を学ぶ。現在は母校の教員としてボクシング部の指導やスポーツに関する研究を行う傍ら、執筆活動を行っている。
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