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コロナで変わる東京五輪、選手は競技開始5日前から終了2日後までの短期滞在

2020 12/15 17:00田村崇仁
リオ五輪の開会式Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

「密」回避、開会式の参加者激減か

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大で「新しい生活様式」が求められる中、来夏に延期された東京五輪・パラリンピックは開催が実現すれば、新たな「東京モデル」と呼ばれる前例のない大会となりそうだ。

まず選手はどうなるのか―。国際オリンピック委員会(IOC)は12月7日、東京五輪の感染予防策として、各国・地域のアスリートが一つ屋根の下に宿泊する五輪選手村での新たなガイドライン(指針)を公表した。

その中で最も象徴的なコロナ対策は、選手の滞在期間を各競技の開始5日前から終了後48時間(2日)以内に制限する厳しい規定になるかもしれない。

この指針に従えば、陸上やレスリングなど日程上、大会後半に登場する選手は開会式への参加が困難になると想定され、IOCは入場行進に参加できる役員数も今大会は厳格に制限する方針。最後に登場する日本選手団も開催国とはいえ、どこまで参加数が認められるかは未知数だ。

各国の入場行進といえば開会式のハイライトの一つとなるが、特に行進の待機場所が「密」になりやすく、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するため、大幅な人数削減も含めた見直しが徹底して進むと考えられる。

「平和の祭典」象徴の閉会式も出られない?

戦後復興の象徴となった1964年東京五輪は、自由で開放的な雰囲気に包まれた閉会式の名場面が今も語り継がれている。当初の見込みを大幅に上回る4000人規模が参加し、五輪全体の参加者数の8割近い参加者だったという。

ニュージーランド選手が日本の福井誠旗手を肩車して歩き始めると、性別や人種、勝者や敗者も関係なく腕を組んでさまざまな壁を越え、笑顔にあふれた選手たちが「平和の祭典」「世界は一つ」を印象付けた。

だがコロナ禍の今回はIOCの指針で大会前半に登場する柔道や競泳、体操の選手は閉会式に参加できない可能性が出てきた。競技が終われば荷物をまとめて可及的速やかに帰国の途へ―。

選手村の滞在制限に関係なく、感染リスクを考慮して自主的に行進参加を見合わせる選手が出てくることもありそうだ。

4~5日間隔で検査、円陣やかけ声も禁止

試合前の準備も大幅に変わってくる。選手村に滞在する選手らは症状がなくてもウイルス定期検査を原則96~120時間(4~5日)の間隔で実施する見通し。体温計や消毒液などが入った感染予防パック、マスクの常時着用や3密(密閉、密集、密接)回避を柱とする日本基準の対策は必須となりそうだ。

ロッカールームでは一定の間隔をあけ、以前は大きな声を掛け合って気合を入れたり、円陣を組んだりして気分を高めるシーンが恒例だったが、飛沫が飛ばないよう円陣やげきを飛ばす、歌うなどといった行為に対して異例の制限が設けられた。

52項目で簡素化、歓迎式典も取りやめ

IOCは史上初の延期となった五輪で経費削減に加え、新たな大会像の提示を目指して、大会組織委員会と計52項目の簡素化を進めることで9月に合意した。この見直しは過度な待遇が常識だったIOC委員への「聖域」にも及び、華美な演出を極力避け、約300億円の開催経費の削減となる見通しだ。

五輪での大会関係者の参加は想定される約5万人から10~15%減。開幕直前のIOC総会でIOC委員を歓迎する大規模式典を取りやめ、各国選手団が選手村に入る際の「入村式」も実施しないことになった。

簡素化は「大会の根幹」と位置付けられる競技、選手は対象外とし、大会関係者の削減とサービスの合理化、会場や輸送のインフラなど4分野で幅広く検討された。

52項目のうち、会場の仮設施設の見直しや照明の削減などで150億円を圧縮。競技会場や選手村などの装飾の30~40%削減で10億円、聖火リレーの運営車両やスタッフの削減などで8億円をそれぞれ減らす。

デジタル化も推進

「ウィズコロナ時代」の五輪はテクノロジーを活用した「分散化」も必須の対策だろう。Jリーグでは自宅などで中継を見ながら現場に声援を届ける新技術「リモート(遠隔)応援システム」の実証実験が始まっており、今後の五輪でも応用ができるか注目される。

欧米のスタジアムでは競技会場で最先端の掃除ロボットを使う先行例もある。例えば五輪会場でトイレや売店など混雑している場所を通知する仕組みをデジタルで可視化できれば、3密(密閉、密集、密接)回避にもつながりそうだ。

10月には五輪の観客らが競技会場に入る際に通る手荷物検査エリア運営の実証実験が公開され、入場時の検温はサーモグラフィー、非接触型の検温計、手首に貼るだけで発熱しているかどうかが分かる「検温シール」の3方法をテストしている。

外国人客は感染対策アプリ義務化を検討

海外からの観客受け入れはどんなことがきるのか―。政府は感染対策で最先端のスマートフォンアプリの導入を目指す。

現状ではワクチン接種は入国時の条件にせず、公共交通機関の利用にも制限を設けないが、観客には行動や健康状態、検査結果の一元管理のため、スマホの保持とアプリのインストールの義務化を検討する見通しだ。

外国客は専用のIDをつくり、ビザやチケット番号、顔写真、陰性証明書のデータをアプリに登録。一つのアプリでビザや観戦チケット連動させることで、接触確認の機能の利用につなげる。多言語対応の相談窓口に連絡できる体制づくりも構築する方針だ。

バーチャルスポーツも五輪入り?

コロナが再拡大する中、最近スポーツ界で話題になったのが国際自転車連合(UCI)主催のeスポーツ世界選手権。オンライン上で行うバーチャル大会の一種だが、コンピューターゲームで競うeスポーツと異なり、ペダルをこぐ力が速さに変換され、身体運動を伴うのが特徴だ。

IOCのバッハ会長は以前から一般的なビデオゲームとバーチャルスポーツを区別しており、身体運動を伴うeスポーツには関心を寄せている。バーチャルスポーツを各国際競技連盟(IF)が積極的に活用する方向性も確認しており、コロナ禍での東京五輪はこうしたバーチャルスポーツにも将来への布石としてスポットライトが当たる可能性もある。

パリ五輪はブレイクダンス採用、低コスト化へ

IOCが五輪の将来のために「東京モデル」の確立を目指すのは、肥大化、商業化した五輪の体質改善を図る一大プロジェクトでもある。2024年パリ五輪は開催都市が提案する追加競技として若者に人気のブレイクダンスが新たに採用された。

開催経費の膨張を懸念するIOCは新型コロナ禍の追い打ちを受け、最近は低コスト化が実現する「アーバン(都市型)スポーツ」にも高い関心を寄せる。ブレイクダンスをはじめ、東京五輪に続いてパリでも選ばれたスケートボード、バスケットボール3人制などはスタジアムやアリーナが不要で、屋外の仮設会場はコスト、感染予防の両面でもメリットが大きい。

中国・杭州で2022年に開催されるアジア大会ではeスポーツが正式種目として採用される予定。IOCのバッハ会長は五輪の観客受け入れに関して新型コロナのワクチンの開発状況などを踏まえ、来春までに決定する方針を示すが、困難な時代でさまざまな課題に直面する中、東京大会は人々が集う「平和の祭典」の在り方を見直す機会になりそうだ。

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