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東京五輪中止説に「NO!」来日するバッハ会長が描くシナリオ

2020 11/14 11:00田村崇仁
トーマス・バッハIOC会長Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

菅首相や森喜朗会長、小池百合子知事らと会談

新型コロナウイルスの感染再拡大が欧州や米国だけでなく、日本でも深刻な状況の中、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が11月15日から18日の日程で来日することが発表された。

その場で「来夏に延期された東京五輪の中止を正式表明」「重大発表のXデーは11月18日」「2032年に再招致」など一部のネット情報などで「五輪中止」説が取り沙汰されているが、現実はその逆。バッハ会長は「来日して中止が議論されるのか?」との質問に「答えはNOだ!」と明確に否定し、菅義偉新首相や大会組織委員会の森喜朗会長、東京都の小池百合子知事と会談し、五輪開催へ開催国との協力関係を改めてアピールする狙いだ。

IOC幹部は「中止のシナリオは全くない。全くどこから出たデマなのか。コロナ禍でも開催する方策を探り、海外からの観客も前提に開催を目指す方針」と明言しており、広告大手電通の関係者も「IOCはどんな形でも100%やる気満々。アスリートの命がもちろん最優先だが、延期の上に中止となっては五輪ビジネスが崩壊してしまう」と打ち明けた。

世界のアスリートにメッセージ発信

IOCが東京五輪開催に向けて想定するシナリオは4段階あり、現状では安全度が2番目に高い「ベースケース」の「コロナとの共存」を想定しているという。刻一刻と世界の情勢が変化する中、あらゆるシナリオに対応できるコロナ対策の「ツールボックス」を準備し、コロナ後のスポーツ界も見据えた「歴史的な五輪」を目指す構想だ。

今回の来日理由はそのシナリオを再確認した上で、不安を日々感じながら練習する世界各国のアスリートに五輪開催の「明確なメッセージ」を届けることでもある。

「無観客」か「観客削減」は来春に判断

東京五輪の販売済みチケットは希望者への払い戻しが11月10日未明から始まり、30日午前11時59分まで公式販売サイトで受け付けるが、国内ファンの中にはコロナ禍で五輪への熱がすっかり冷めてしまって高価なチケットを手放す人が出てくる可能性もある。

それでも国民の大きな関心事といえば「観客」の扱いだろう。バッハ会長は「五輪中止説」などどこ吹く風で「海外からの観客を前提に進める」との意向を示しており、政府や組織委はどこまで観客を入れるのか、来春をめどに判断する見通しだ。

「フルスタジアム」か「観客の削減」か「無観客」か―。無観客開催となれば、大会組織委員会はチケット売り上げの約900億円が減収となるため大打撃だが、競技場への観客の入れ方はその時点での政府の上限規制に準ずる方針だ。現在はプロ野球やJリーグなど収容人数が1万人を超える会場では定員の50%を上限としている。

体操の国際大会は「10点満点」

11月8日、東京・国立代々木競技場で行われた体操の国際大会は、IOCや大会組織委員会にとっても「重要なテストケース」となった。

IOC委員でもある国際体操連盟(FIG)の渡辺守成会長が「やるしかない」と腹をくくって各国や日本政府、企業と調整して実現に尽力し、新型コロナ禍に五輪競技で初めて日本に外国勢を招いたその名も「友情と絆の大会」。日本、米国、ロシア、中国の4カ国による計30選手が限定的な約2000人の観客の前で演技した。

ここで大きかったのはIOCに巨額のテレビ放送権料を支払い、大口スポンサーも多数抱えて五輪に大きな影響力を持つ米国の存在。米国からの派遣実績にこだわったIOCのバッハ会長は「10点満点。東京五輪の成功に向けて重要なマイルストーン(道しるべ)だ」とのメッセージを公式ツイッターで出した。

中国選手は驚きの「防護服」で来日

海外でテニスの全米オープンやゴルフのマスターズ、欧州サッカーなど大規模なスポーツイベントが徐々に再開する中、6月から計画に着手した体操の国際大会は、徹底したウイルス検査や厳しい行動制限など東京五輪でも想定される対策を次々と試行した。

海外選手がチャーター機で来日した際、中国選手の防護服やゴーグルの「完全装備」には驚きの声も上がったが、一般客とは動線を分けて対応。宿泊先では日本勢を含めて国ごとにフロアを貸し切り、試合会場へのバスも分けて外部との接触を禁じた「バブル」の状態を保つ対策が奏功した。

ただし参加は4カ国と少なく、世界の国・地域から選手を受け入れて33競技を実施する五輪本番とは単純比較もできないが、渡辺会長は「今回のコロナ対策は成功」と総括した。

課題は「密」になる柔道やレスリング?

IOC本部があるスイスを含め、欧州の「コロナ第2波」は深刻化している。大きな懸念材料は室内で「密」になるコンタクトスポーツの柔道やレスリングだろう。

12月に開催予定だった柔道のグランドスラム(GS)東京大会は9月に中止されたが、数十カ国から選手らが集まるコンタクトスポーツに集団感染が発生すれば、五輪開催が危ぶまれることを懸念し、バッハ会長自身が難色を示したとされている。

10月には柔道で2月以来の主要国際大会となったグランドスラム・ブダペスト大会が無観客開催など感染予防策を講じて3日間の日程で行われた。国際柔道連盟(IJF)は「大会は成功」との見解を表明した一方で、開幕前のPCR検査で複数の陽性者が判明。しかし感染再拡大で、その後主要国際大会の年内実施は中止すると決めた。

12月にセルビアで予定されたレスリングの世界選手権も中止に。日本や米国など複数の国が参加しないことを表明していたが、選手間の接触が避けられない競技での難しさが浮き彫りになった。

ワクチンなしでも開催に自信

通常であれば五輪は200を超える国・地域から選手だけで約1万1000人の参加が見込まれ、一つ屋根の下の「選手村」で共同生活を送る。クラスター発生のリスクを考えると、最も対策に神経をとがらせるテーマだ。

来夏への延期に伴う追加費用負担は数千億円規模ともいわれ、コロナ禍で疲弊した世の中の傷口を広げる前に早く中止を決断した方がいいとの声も一部に出ているのは事実。だがここへ来て「追い風」も吹いてきた。

米製薬大手ファイザーが11月9日、開発を進めている新型コロナ感染症のワクチンについて発症を防ぐ有効性が90%以上に上ったとする暫定的な臨床試験の結果を公表。世界保健機関(WHO)とも連携するIOCのバッハ会長は「短時間で結果が出る検査法やワクチンの開発にも一定の期待感がある」と受け止めた。

その上で「ワクチンができれば当然プラスになるが、絶対なくてはいけないものでもない。あらゆるシナリオに対応し、フルスピードで安全安心な五輪を目指す」と呼び掛けている。

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