レースを決めた残り1400mの攻防
冬の東京名物マラソンレースは2月にしては寒さ和らぐ青空の下で行われた。レースを引っ張ったのは6歳牝馬ウインキートス。これが26戦目。重賞は12回目の出走だった。重賞初出走は2021年日経賞15着。勝ったのは同世代で同馬主の牝馬ウインマリリンで、1秒9差つけられた。その次走目黒記念で重賞初制覇。以後、一昨年のオールカマー2着、昨年の目黒記念3着、オールカマー3着と牡馬相手の重賞で善戦してきた。牝馬限定重賞はエリザベス女王杯10、15着にとどまる不思議な経歴をもつ。それは言いかえれば、父ゴールドシップという血統背景もあり、牝馬としては距離適性が長かったため、牝馬限定の中距離戦は合わなかった。ウインキートスは自分が走りやすい距離を求めて、険しき道を歩んできた。
26戦目にしてはじめて3000mを超える距離に出走したウインキートスは果敢に先頭に立ち続けた。牡馬相手も東京も慣れたもの。ウインキートスは新しい自分を求めて限界に挑んだ。最初の1000m1:02.7、中盤1000m1:02.5と淡々とかつマイペースを決め込んだラップ構成はマラソンレースらしい一定のリズムを要求される形だった。しかしウインキートスにとって途中で中団に控えていたスタッドリーが我慢たまらず早めに勝負をかけるという誤算があった。逆サイドからみれば、このままウインキートスにマイペースを決めさせないという後続の危機感のあらわれだった。
スタッドリーが抑えきれなかった側面もあったこの動きに呼応するように、ウインキートスが突っぱねた。主導権を渡さんとするこの動きは残り1400m地点と明らかに早かった。早いのは承知で動いたことで、このレースは正真正銘スタミナを問うレースに。ここからゴールまで11.5-11.7-12.2-12.3-11.9-11.7-12.6。コーナーで少しペースは落ちるも、2周目向正面11.5-11.7はきつく、ウインキートスは大差16着。鞍上の横山和生騎手は、最後の直線で手ごたえを察して無理しなかった。
厳しい流れで活きたオルフェーヴル産駒の耐久性
残り1400mスパートになれば、最後まで伸びる馬は限られる。それが勝ったミクソロジーだった。道中はインに控えスタッドリーの動きに見向きもせず、じりじりと位置が下がっても動じず、直線まで待ち、末脚を爆発させた。充実期を迎えた馬でないと、この流れを乗り切って勝てない。前走万葉S勝利から連勝したのは11年コスモメドウ以来だが、どちらも4歳馬で、オープンと重賞を連勝するには若さと勢いが大事だ。
父オルフェーヴルはウインキートスの父ゴールドシップと同じステイゴールド系だが、凱旋門賞好走歴がある分、スタミナというか耐久性が高い。ミクソロジーは昨年ここを勝ち天皇賞(春)3着だったテーオーロイヤルを超える可能性を感じる。
2着ヒュミドールは13番人気という低評価を覆す激走だった。2年前のダイヤモンドS5着、日経賞4着と長距離でやれる下地はあったが、その後は2000m重賞2着2回と中距離寄りの成績を残しており、距離に関しては半信半疑だった。内で上手く立ち回った面も大きいが、最後に持久力戦になったことも好走要因だ。ステイヤーというより、我慢比べのような持久力戦に強いタイプ。こちらも父はオルフェーヴル。こういった耐久戦に強い。ただしヒュミドールはミクソロジーと比べると、好走できる範囲が狭いので安定感に欠ける。今後は取り扱いが難しい。
3着シルブロンは4歳シーズン6連勝でコーフィールドCまで勝ったメールドグラースの半弟。兄は1年間で国内外7回も競馬に参加し、【6-0-0-1】というタフネスぶりを発揮した晩成型。シルブロンも4歳後半連勝で重賞3着と軌道に乗ってきた感がある。兄のようにあれよあれよとトップ戦線まで行けるだろうか。今回は最後の最後にミクソロジーが内にヨレてリズムを乱した。2着ヒュミドールとは2馬身差で、この不利がなければとまでは言えない。距離は兄と同じく2400mぐらいがベストだろう。それでも最後まで上位争いに加わったのが充実期の証明だ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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