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【函館記念】極悪馬場のサバイバルレース! 展開だけじゃないハヤヤッコの勝因とは

2022 7/18 10:45勝木淳
2022年函館記念のレース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

脱落する馬、残る馬、明暗くっきりサバイバルレース

6週間にわたる函館開催最終日の馬場は雨の影響を受け、最終レース後の馬場開放が中止になるほど悪化した。年に一度の貴重な機会だっただけに残念だ。道悪になった函館の馬場は異常なほど力が要る状態になる。重馬場で行われた函館記念はまさにサバイバルレース。力尽きた馬から順に脱落していくような過酷な競馬になった。

前日と馬場を比較すると、土曜日1勝クラス芝1200mは1.11.2、前後半600m35.0-36.2、日曜日同条件は1.12.3、前後半600m35.0-37.3。馬場状態はやや重と重、たった1日で後半が約1秒かかった。この馬場でレッドライデンが作ったペースは前半1000m通過1.00.1。ハイペースといっていい。サバイバルレースは極悪馬場と前半のハイペースによってつくられた。

後半1000mは12.3-12.9-13.2-12.5-12.6。3コーナー手前でレッドライデンが一杯になり、急激にラップが落ち、残り600~400m13.2。かわりにタイセイモンストルが先頭に立ち、内から外に切りかえて進出するハヤヤッコ、後方から早めに動いたマイネルウィルトスとサンレイポケット。まだまだ力をふり絞ろうとする馬と力尽きた馬、勝負所の3、4コーナーでの風景はこのレースの過酷さをストレートに映す。


ハヤヤッコ激走は恵まれただけではない

ここまで馬場が悪くなると、外差しにさえならない。内外どこを通っても悪く、一周回って、スタミナを削がれない内が有利になる。枠なりにそれを活かしたのが勝ったハヤヤッコ。自慢の白毛も泥だらけになったが、力強く抜け出した。早めに脱落する馬たちを避けるように先に外目へ進路を切りかえた点も完璧で、申し分ない競馬だった。19年レパードS以来の重賞2勝目。もちろん、ダートで培ってきたスタミナと持続力が極悪馬場のハイペースで引き出された形での好走ではあるが、決してハマっただけではない。

2歳10月アイビーSを最後にダートに転向したハヤヤッコが芝に再挑戦したのは6歳春の日経賞。はじめての芝の重賞で上がり最速タイを記録、タイトルホルダーから0.4差5着。好走は好走だが、このあとは確実に結果を残せるダートへという選択肢はあった。しかし陣営は天皇賞(春)へ進んだ。さすがに3200mは距離が長く、かつ日経賞とは一転したタイトルホルダーの厳しいペースも合わなかった。ここで芝はひと区切り、でもよかった。それでも結果を残せるダートではなく、芝への挑戦を続けた。

白毛一族といえばソダシなどが頑張っているものの、活躍は牝馬が多く、父として白毛を継承できる可能性はハヤヤッコぐらい。あくまで想像だが、芝挑戦はそれを実現するための模索だったのではないか。

これは単に想像にすぎない。しかし、陣営が芝の重賞へのチャンレジを諦めなかったからこそ、函館記念の勝利はある。いくら極悪馬場のハイペースであっても、ダートから芝替わりでいきなり結果を残せるわけではない。これまでハヤヤッコが歩んだ足跡の先にこの勝利はある。後半800m51.2は確かにハヤヤッコに味方したが、芝の重賞好走はこれっきりではないはずだ。



わかりやすい、マイネルウィルトスの勘所

それにしても後半800m51.2は相当にタフで、2000年以降、芝2000mの重賞で後半800mが51秒以上になったのはたった7回。直近では17年キタサンブラックが追い込みを決めた天皇賞(秋)やエリモハリアーが連覇を決めた06年函館記念、13年トウケイヘイローが逃げ切った札幌記念(函館で開催)などがある。今年の函館記念を含め、函館は3例目。道悪になった函館は本当に厳しく、アラタやサンレイポケットなど負けた人気どころをはじめ、度外視したい馬も多い。

そんななかで好走した2着マイネルウィルトス、3着スカーフェイス、4着ウインイクシードはかなりタフで、今後もハイペースのスタミナ比べでは評価したい。特に前半は後方にいて、先に動いたマイネルウィルトスは本当にスタミナが豊富。

軽い瞬発力勝負では成績を落とし、スタミナが問われる東京芝2500mのアルゼンチン共和国杯や目黒記念、そして今回のような競馬で浮上する。比較的つかみやすいタイプなので、今後も条件が合うレースでは積極的に狙いたい。1番人気の函館記念好走は19年マイスタイル1着以来、その前は10年2着ジャミールまでさかのぼる。簡単なことではなく、これもまた力の証だ。


2022年函館記念のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。



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