ポイントは前半600m34.3
京阪杯が06年に1200mへ距離変更されてから、秋のGⅠ開幕戦であるスプリンターズS経由でここに挑んだ馬は【2-0-1-23】勝率7.7%、複勝率11.5%と大不振。スプリント路線は夏から戦い詰めで大目標のGⅠへ向かう。秋の終わりにある京阪杯でさらに上昇する馬は少なく、それが前走スプリンターズS組の不振にあらわれている。
ところが今年の京阪杯はスプリンターズS13、12、15着のエイティーンガール、タイセイビジョン、ファストフォースで決着。スプリンターズS組の勝利は16年ネロ以来5年ぶり、3着以内独占は京阪杯史上初の記録だった。
レースはレイハリアが外枠に行き、スプリント戦のわりに飛ばす馬が不在。ハナ争いが読めない難しい展開だったなか、ゲートを決めてハナを主張したのはCBC賞勝ち馬ファストフォース。スプリンターズSで控え、半端な競馬になったことを踏まえ、今回はCBC賞勝利時と同じくハナを選択した。同枠のサヴォワールエメがそれを利用し、番手につけた。外枠のレイハリアも無理に競りかけることなく、隊列はすんなり決まった。
前半600m34.3。コーナー区間が多くを占める阪神芝1200mは前半のペースが上がりにくいものの、それでも同条件の昨年33.8と比べても遅い。結果的にこの遅い流れがレースを左右した。
もっと走っておかしくなかった、ファストフォース
勝ったエイティーンガールは追い込み一手でハイペース向きのイメージだが、ここ2年キーンランドC1、2着や京都のシルクロードS2着など前半が早くなりにくい芝1200mに強く、珍しい短距離の瞬発力型。だから買い時が難しく、序盤が自然と早くなる中山【0-0-0-3】や小倉【0-0-0-1】では展開が向かない。今回10番人気。すっかり盲点になっていたが、今回は外から上がり3ハロン最速33.5で直線一気を決めた。これはハイペースで追い込みが決まったのではなく、遅い流れだったために瞬発力が活きた結果。これを取り違えると、エイティーンガールの買い時を間違えてしまう。
2着タイセイビジョンは、今春まではマイル路線を中心に使われ、この夏CBC賞4着からスプリント戦線に参入。なかなか前半の流れについて行けない場面が多かったが、前半600m34.3という流れになって、それほど置かれず、勝負所で外から上手く押し上げられた。競馬にやっと参加できた印象で、これも前半の遅い流れが幸いしたからだろう。だからこそ、これでスプリント重賞でも戦える力があると判断するのは早い気がする。こちらも前半が流れないことが条件になる。
3着は逃げたファストフォースが粘った。前後半600m34.3-34.5で乗り切れる流れならば、逃げ粘って当然。なぜなら小倉のCBC賞32.3-33.7、北九州記念33.2-35.0で好走できるほどハイペース耐性があるから。スプリンターズSは本来の走りではなく、むしろこのペースで逃げて3着は、ややこの馬のパフォーマンスとしては落ちているのではないかと感じる。勝てる流れだった。
短距離の瞬発力勝負になったことで、後半粘ってどこまでという最後に速い脚がない馬たちが脱落したなか、大外から伸びてきたのが4着アイラブテーラー。気性の問題から後方一気しか選択肢がない馬で、好走ゾーンは非常に狭いが、こちらもエイティーンガールと同じく、前半が早くなりにくい京都や阪神で好走する短距離の瞬発力型だ。
最後の直線では内にモタれてしまい、それを立て直しながら追わざるを得ず、瞬発力を発揮しきれなかった。展開ははまっただけにもったいなかったものの、この4着で次走以降1200m戦に出走して、人気になるようならエイティーンガールと同じく取り扱いは注意したい。
2番人気レイハリアは16着。ハイペースの先行粘り込みが身上のこの馬にとって、この流れは合わなかった。むしろ、あっさり控えて流れに応じずに積極的に攻めて、早い流れを作った方がよかったのではないか。やや消極的だった印象がある。
3着以内をスプリンターズS組が独占したが、レース内容をひも解くと、いずれも流れやコース形態不向きのために崩れた組ばかり。こういった現象は今後も京阪杯が阪神でも京都でも起こるだろう。データ予想的には崩れたが、改めて流れを読み、適性がかみ合う馬を探すという基本に立ち返ることを教えられたレースだった。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2000-2004 00年代前半戦』(星海社新書)。
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