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【ジャパンC】無敗の三冠馬コントレイル、すべてを払いのけるプライドあふれる走り

2021 11/29 10:34勝木淳
2021年ジャパンCのレース展開,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

コントレイルが発した熱

人と人とが肩を寄せ合うことにためらい、社会的な距離についてあれこれと考えるようになり、様々な価値観の違いが生まれ、かつてあった熱を失いつつある時代にコントレイルは走った。

JRAは2020年2月終わりから無観客競馬を決め、競馬場から熱が消えた。コントレイルは三冠ロードを静寂とともに歩むことになった。日本ダービーを勝った福永祐一騎手が無人のスタンドに一礼した場面は忘れられない。競馬場から熱は消えてしまったが、競馬の熱が収まったわけではない。我々はテレビを通じてコントレイルを見守り続けた。

ごく少数ながら観客が目撃した三冠達成の瞬間。アリストテレスとの壮絶な叩き合いは歴史に残るワンシーンだった。出口が見えない不安な日々に、コントレイルはデアリングタクトともに希望と勇気の象徴だった。

次走、三冠馬として臨んだジャパンCでは女王アーモンドアイに果敢に挑み、2着。入場制限は変わらず、肩を寄せ合い、大歓声をあげることはできずとも、競馬場に少しずつ熱が戻りつつある今年、大阪杯3着、天皇賞(秋)2着と、皮肉なことにコントレイルは勝利から遠ざかった。

競馬ファンの熱気を一身に背負うはずの三冠馬が勝てない。なにより陣営にとって辛かったにちがいない。外野は残酷で、思ったことを垂れ流す。一億総批評家時代。批評は自由だが、責任と覚悟をもってしなければいけない。私も所詮は外野の一人だ。責任放棄だけはしたくない。だから、コントレイルの引退レースであるジャパンCを見守った。

そして、コントレイルはジャパンCを勝った。福永祐一騎手は馬上で観客がいるスタンドに一礼、改めてコントレイルはスゴイ馬なんだということを繰り返した。無敗で三冠を制して以来、ずっと言いたかったが、スゴイ馬だと信じているとは言えても、負けることでスゴイ馬だとは言えなくなっていた。だからこの日、福永騎手はコントレイルが本当に強い馬だと何度も繰り返し、もう二度と出会えないかもしれないと語った。あの巨大な東京競馬場に1万人足らずは、まだまだ少ないものの、最後にコントレイルを中心に熱が生まれてよかった。

究極の持続力と瞬発力が問われたレース

コントレイルの勝因をあげれば、やはりスタートだろう。1コーナーまで距離がない東京芝2400mで多頭数となれば、内枠は揉まれて、初角で位置を下げ、後手を踏むことがある。ここ数戦コントレイルはゲート内が不安定で、福永騎手がなんとかうまく五分に出していた印象。この日は五分以上のスタートを切り、インに押し込められず、中団にスペースを確保、見事に攻めながら初角を迎えた。目前にはオーソリティ、シャフリヤールがいる理想的なポジションをとった。これが最大の勝因だ。まして道中、並びかける馬もおらず、極めてプレッシャーが少なかった。

ゲートで後手を踏んだキセキが前半1000m通過後に動いて先頭に立ち、後半1200mはコントレイルが抜け出した最後の200mを除きすべて11秒台で、1.10.2。前半1200m1.14.5と比べれば、明らかに激流。ここ数年のジャパンCと同じく、究極の持久力と瞬発力がともに問われる勝負になった。この後半1200m1.10.2はジャパンC史上3番目の記録。上位は18年アーモンドアイ(1.08.9)、11年ブエナビスタ(1.10.1)といずれも瞬発力に長けた牝馬。ここにもコントレイルの価値を見いだせよう。

早めに抜け出した2着オーソリティ、コントレイルとの間で狭くなってブレーキを踏んだ3着シャフリヤールも立派だが、それらを後ろから差して2馬身差つけたコントレイル。さすが無敗の三冠馬だ。

オーソリティはアルゼンチン共和国杯を勝った時点で「間隔を詰めずに使う方針なので今年はないかもしれないが、来年はジャパンC一本に絞って」はどうかと書いたが、まさかの今年出走して2着。詰めて使ったあとのダメージは心配にはなるが、やはり東京芝2400~2500mならば超Aランクにも通用する力がある。来年は虎視眈々とジャパンCを照準に過ごしてほしい。

シャフリヤールは川田将雅騎手に乗り替わったことで好位直後のポジションをとった。最後はちょっと瞬発力で見劣った分、コントレイルとオーソリティの間に入れず、立て直す不利があった。勝負所でのブレーキは痛かった。この好走で神戸新聞杯4着は馬場が原因だと明確になり、良馬場ならば来年以降も堂々主役クラスになる。エフフォーリアとの再戦が楽しみになった。

天皇賞(秋)に続き、最後に差してきて4着サンレイポケットもがんばった。鮫島克駿騎手、父(鮫島克也騎手、佐賀競馬所属)の引退式の日に立派な騎乗を披露、親孝行できた。勇気をもって中盤に動き、なんとか抵抗を試みたキセキなど負けた馬たちも後半1200m1.10.2を戦った。それぞれを称えたい。


2021年ジャパンCのレース展開図,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2000-2004 00年代前半戦』(星海社新書)。


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