3、5歳いずれもイマイチで
マイルCSは時代ともに傾向が流動的だ。かつてはGⅠの中でも比較的堅実な結果が多かったレースだった。その後、00年代前半は波乱決着が目立ち、00年代後半は再び堅実になりつつあったが、10年代は1番人気が勝てないGⅠといわれるようになった。
20年代に入った昨年はそんな呪縛をグランアレグリアが解放した。09年カンパニー以来の1番人気勝利だった。今年も舞台は昨年に続き阪神芝1600m。ここでは過去10年間のデータからローテーションなどの傾向について探っていきたい。
上記の通り、1番人気は【1-2-2-5】勝率10%、複勝率50%とGⅠとしては信頼度が高くはない。ただ、今年はグランアレグリアが連覇を狙って登場する。このレース連覇はニホンピロウイナー、ダイタクヘリオス、タイキシャトル、デュランダル、ダイワメジャーの5頭。最後はダイワメジャーの06、07年だから、連覇達成なら久しぶりの記録になる。
1番人気の信頼度が高くない反面、2~5番人気の好走確率が非常に高く、ここ10年で大荒れだったのは11年5、11、4番人気(勝ち馬はエイシンアポロン)ぐらい。1番人気が馬券圏外に敗れても上位人気同士の組み合わせで決まるケースが多く、上位拮抗のレースでもある。
5歳グランアレグリアと3歳シュネルマイスター。天皇賞(秋)と同じく世代間の争いが注目される。そこで年齢別のデータを出すと、5歳は【2-4-4-51】勝率3.3%、複勝率16.4%と勝ちきれない傾向がある。スピードとその持続力、いわば総合力が必要になるマイル戦では5歳は曲がり角といっていい。
ただし若い世代優位かというと、3歳は【2-0-1-32】勝率5.7%、複勝率8.6%とこちらもイマイチ。NHKマイルC勝ち馬は、この10年5頭出走、13、13、12、11、15着。17、18年とペルシアンナイト、ステルヴィオと連勝した3歳だが、いずれも春はクラシック出走組。マイル戦を歩んできた馬は総じて苦戦傾向にある。
良績は充実期を迎える4歳【5-5-4-23】勝率13.5%、複勝率37.8%。今年該当するのはサリオスやロータスランドなどだが、いずれもやや結果を残せていない近況は気になる。
3歳で評価すべきはダノンザキッド
グランアレグリア、シュネルマイスターともに年齢データでは不安点があるが、ここからは前走成績からステップレース別に具体的な傾向を考えていこう。
前走クラス別成績では前走が非重賞だった馬はオープン【0-0-0-3】のみ。まず重賞出走が条件になる。そこで有力馬のステップレースを中心にみていこう。
前走2000mの天皇賞(秋)出走馬は【1-1-2-10】勝率7.1%、複勝率28.6%と勝ちきれない。グランアレグリアにとって距離短縮、昨年と同舞台は条件好転だが、データ上は昨年のローテである前走スプリンターズS【2-1-0-6】勝率22.2%、複勝率33.3%より厳しい。
しかし、天皇賞(秋)での位置取り別成績では、グランアレグリアが当てはまる先行は【0-1-1-1】複勝率66.7%。勝ち馬こそいないが、逃げ【0-0-0-2】、後方【0-0-0-4】であることを加味すると、いい意味で2000m戦の流れに逆らいすぎず、無理して付き合わなかったことは好材料。今度はもっと伸び伸び走れる。
それではシュネルマイスターの前走毎日王冠はどうだろうか。同ローテは【2-0-2-19】勝率8.7%、複勝率17.4%。その着順別成績を出すと、勝った馬は【0-0-0-3】。18年アエロリット、19年ダノンキングリー、20年サリオスいずれも2番人気で12、5、5着。シュネルマイスターも2番人気が予想される。ちょっと嫌な傾向だ。ちなみに毎日王冠組の好走は掲示板以内、ケイデンスコールの6着以下は【0-0-0-8】だ。
どうにも煮え切らないデータばかりになってしまったので、最後にトライアルのスワンSと富士Sの傾向について調べる。
1400mのスワンS組は【0-4-2-34】複勝率15.0%。その着順別成績は4着以下【0-0-0-21】とサッパリ。好走は3着以内に限られる。今年でいえば、サウンドキアラとホウオウアマゾン。こちらは6歳と3歳。年齢が気になる。
マイル戦の富士Sは【3-3-1-44】勝率5.9%、複勝率13.7%。GⅡ昇格元年の昨年は5頭出走して6、7、13、14、15着と不発だったが、その着順別成績を出すと、1着【1-1-1-3】勝率16.7%、複勝率50.0%や5着【1-1-0-4】勝率16.7%、複勝率33.3%、6~9着【1-0-0-14】勝率6.7%と傾向が定まらない。10着以下は【0-0-0-7】なので、大敗組以外はどれも可能性は残る。
そこで前走富士S組について位置取り別成績をみる。逃げ【0-0-0-4】、後方【0-0-0-13】と極端な競馬をした馬の好走はない。好走条件は先行と中団。今年の富士Sは差し・追い込み決着だった。2着だったサトノウィザード(回避予定)や逃げたロータスランドを買うより、中団から差してきたダノンザキッドを見直したい。3歳は引っかかるが、春はクラシック候補だったので、過去にここで好走した3歳馬とプロフィールが重なる。ちょっと怖い存在ではないか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 2000-2004 00年代前半戦』(星海社新書)。
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