今週もでるか、異例の大記録
無敗の4歳牝馬が牡馬三冠馬を撃破、白毛馬が無敗でクラシック制覇、3年連続で無敗の皐月賞馬が誕生──。ここ最近、あまりにもドラマチックな展開が続いている。先週も、香港GⅠで日本馬4頭が1~4着を独占。地元勢が手薄だったとは言え、こちらも偉業だろう。
さらにはサトノレイナスのダービー挑戦など、未来に向けた話題も十分にある。そんな話題いっぱいの競馬界。今週は伝統の一戦・天皇賞(春)が開催される。エピファネイア産駒アリストテレス、オルフェーヴル産駒オーソリティ、キズナ産駒ディープボンドらが人気を集める。
新進気鋭の種牡馬たちによる決戦──と、言いたいところだが、今年の注目はそれだけではない。日経賞1着馬ウインマリリン、2着馬カレンブーケドールが参戦。この有力馬2頭はご存知の通り、牝馬である。
そして、もうひとつの注目点が今年の開催コース。京都競馬場の改修にともない阪神芝3200mで開催されることになったのだが、このコースがまた一筋縄ではいかない。2006年に外回りコースが新設して以来、今年まで使用例のないコースなのである。急遽、条件戦の松籟Sが例年の芝2400m戦から距離延長し、同コースを使用した。
しかし未知数であることには変わりない。これだけでも、今年の天皇賞(春)が興味深い一戦になると断言できる。
94年ビワハヤヒデ以来の阪神・天皇賞(春)
1939年からこれまで伝統として守られてきた、芝3200mという距離。もちろん京都競馬場が使えない年は過去に何度かあった。直近では1994年に、阪神3200mで天皇賞春が開催されている。
この年の主役は、前年度の年度代表馬・ビワハヤヒデ。前年は皐月賞・ダービーで2着だったものの、菊花賞を制して念願のGⅠ制覇を達成した。年末の有馬記念こそ、トウカイテイオーの奇跡の復活劇を前に2着と敗れるが、年明け初戦の京都記念も危なげなく圧勝し、堂々たる主役として参戦していた。
前の週には半弟のナリタブライアンが皐月賞を制覇し、兄のリベンジを達成。その勢いに乗り、レースがスタートすると能力の差だけで他馬を圧倒する。ゴール前、猛然と追い込んでくる同期の皐月賞馬・ナリタタイシンを尻目に、同馬に1馬身以上の差をつける完勝劇を見せつけた。
その際の鞍上は岡部幸雄騎手、2着は武豊騎手。珍しい条件でのレースでも、やはり上位にきたのは実績と実力を持つ2人だった。阪神、芝3200mという距離。上述した、貴重な条件戦・松籟Sに、現代のトップジョッキーであるルメール騎手や川田騎手は騎乗していない。騎乗したのは、今回ワールドプレミアと初コンビを組む福永騎手、ジャコマルとコンビ復活の横山和騎手など。
注目は同レースの1、2着の騎手である。11番人気のタイセイモナークで2着に食い込んだ和田竜騎手が、勢いに乗るディープボンドと参戦。さらに、優勝した北村友騎手はそのままディアスティマとのコンビで出走を予定している。このあたりの騎手は同条件を知るだけに、注意が必要そうだ。
牝馬による68年ぶり制覇か
今年注目される『牝馬による天皇賞(春)制覇』。もし達成された場合、1953年のレダ以来、史上2頭目の牝馬による春の天皇賞制覇となる。最近"史上初"が続き過ぎているため新鮮味が薄いかもしれないが、大偉業であることは間違いない。少なくとも1984年のグレード制導入以降はじめてとなるのだから、勝利した場合は間違いなく近代競馬史に刻まれる。
挑戦するのは、ウインマリリン、カレンブーケドール、メロディーレーン。牝馬による天皇賞(春)への挑戦は、過去にないわけではない。少なくとも、ダービーよりは高頻度でチャレンジされてきたと言って良いだろう。
昨年はメロディーレーンが出走しているが、2018年にも"レイアー姐さん"の愛称で親しまれたスマートレイアーが8歳で出走し、結果は7着。その前年はプロレタリアト(16着)、さらに2015年にはデニムアンドルビー(10着)をはじめ、3頭が出走した。
しかし、平成以降で天皇賞(春)の掲示板に食い込んだ牝馬はいない。ダービーよりも参戦が多いにもかかわらず、だ。上述したスマートレイアーに並び、2005年に海外から参戦した名牝マカイビーディーヴァ(2番人気7着)が牝馬の最先着、という厳しい現実が立ちはだかる。
一方で、スマートレイアーは大阪杯9着、マカイビーディーヴァは中山のオープン競走・エイプリルSで7着からの参戦だった。今年ほど順調に駒を進めてきた牝馬は珍しい。最近の大記録連発ムードを考えれば、決して"ナシ"とは言えないだろう。
ここ数年は1番人気が安定傾向にあり
ここ数年、天皇賞春はなかなか荒れなくなった。特にこの4年は、1番人気が3勝2着1回と安定感抜群だ。2013年以降、ディープ&ブラックタイド兄弟の産駒かステイゴールド産駒しか勝っていないように、血統的な傾向が見抜きやすいのも要因だろうか。
実際、5年前に1番人気ながら12着に沈んだのは、スクリーンヒーロー産駒のゴールドアクターだった。──とは言え、定期的に荒れるのも天皇賞(春)の魅力の一つ。今年がその周期となる可能性は十分だ。
昨年は11番人気のスティッフェリオが2着に食い込む大健闘を見せた。キタサンブラックは天皇賞(春)を2勝したが、その1勝目となる2016年は13番人気カレンミロティックが2着に粘り、馬連は200倍を超えた。印象的なのは、単勝159.6倍のビートブラックが勝利した2012年だろうか。圧倒的人気のオルフェーヴルが11着に大敗した年でもある。
近年は人気に応えている馬だけではなく伏兵として躍進した馬も、ステイゴールド・ディープ系の血の濃い馬が多い傾向にある。ステイゴールド系であれば、オルフェーヴル産駒が何頭か出走するし、ディープ系であれば直仔であるワールドプレミア・メイショウテンゲン・カレンブーケドール・ディアスティマらがいる。
波乱か、順当決着か。牡馬か、牝馬か。新興種牡馬か、ディープか。今年の天皇賞(春)に、大いに注目したい。
《ライタープロフィール》
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。
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