スタート直後の攻防で勝負あり
アルテミスSは今年で9回目。勝ち馬からははアユサン、リスグラシュー、ラッキーライラックなど阪神JFや桜花賞好走馬を多く出し、牝馬クラシック戦線のターニングポイント的なレースという地位を築いた。なかでも先行して勝利したのは2頭でココロノアイ(阪神JF3着、チューリップ賞勝ち)とラッキーライラック(阪神JF勝ち、チューリップ賞勝ち、桜花賞2着)。いずれもその後連続して重賞で好走した。2歳秋に東京マイル重賞を先行して押し切るのは確かな力の証明といえる。
そういった意味で、ソダシのレース内容は文句なしだった。外枠から好発を決め、ハナを伺うほどのダッシュ力を見せて内の馬をけん制。オレンジフィズ、ウインアグライアが追って先手を奪いにきて、若駒だけに引っかかっても不思議ない場面だったが、静かに3番手へ。動作にまったく無駄がなく、スタート直後の攻防だけでその操縦性は群を抜いていた。
外目3番手からあっさり抜け出し後続を突き放したわけだが、ソダシにとって警戒すべきは戦前から予想されていたスローペースであり、案の定レースの前後半800mが48.6-46.3の緩い流れになった。
札幌2歳Sのようなハイペースの持続力勝負(後半800mが平均的に速い、4ハロン競馬)に強いソダシにとって課題だった3ハロン競馬(最後の600mラップが速い)で勝った意義は大きい。緩い流れを制するために思い切って早めに抜け出したのは正解で、吉田隼人騎手はこのレースでどんな流れになっても負けないという自信を得たにちがいない。
瞬発力型、持続力型、見えてくる個性
ソダシが早めにスパートした影響からスローペースでも先行馬は予想外に伸びず、掲示板は中団より後ろにいた馬が占めた。後続勢は緩い流れによってできた馬群のなかでおしくらまんじゅう状態。キャリアの浅さも影響したが、向正面では接触する場面が多かった。
2着ククナもスムーズな追走ではなかったが、気持ちを切らすことなく最後まで走り、キャリア以上の落ち着きを見せた。最後の直線はルメール騎手の迷いなき進路取りによってタイミングよくスペースをしっかり確保、瞬発力を披露。こちらは3ハロン型なので緩い流れでもっとスムーズな競馬であれば次の1勝は近いだろう。しかしながら今回もやれることはやった印象で、現時点ではソダシには力負けだろう。
3着テンハッピーローズは外枠からスムーズな追走、終始外を回ったためともいえるが、最後は伸び負けしてしまった。ストレスなく走りながら2着ククナに捕らえられるあたり、やはり瞬発力勝負では分が悪い印象。ゆるみが少ない4ハロン型の競馬になればもっとやれるだろう。
4ハロン型が多いモーリス産駒のストゥーティも流れ自体は不向きだった。最内をしっかり走れたことで4着確保。同じモーリス産駒のブエナベントゥーラが勝った同日同舞台の未勝利戦のようなラップ(後半800m11.9-11.7-11.7-12.1)が理想。レース展開は先行馬次第なので、今後は自力でそんな流れを作れるようになりたい。
ソダシと札幌2歳Sでタイム差なしだったユーバーレーベンはいかにももったいない一戦だった。スタート直後から馬場がいい外を目指すも、常に外の馬に阻まれ、内に押し込められる形となり、4角では一旦ドン尻まで下がってしまった。直線でも行くところ行くところ進路がなくなり、スペースができた時には万事休す。力を出し切れなかった。馬が外へ流れるようなところもあり、やや気難しい面があったものの柴田大知騎手の焦りがそれ以上に目立った。
仕掛けどころの難しい馬で、札幌2歳Sで大まくりを打った戸崎圭太騎手が乗らなかった点も痛かったか。ステイゴールド系ゴールドシップ産駒らしいしぶとさと気性の難しさが特徴。いかに機嫌を損ねずブレーキを踏まないでロングスパートできるか。今後は己との戦いになりそうだ。
秋の西日を正面に受け、後続を従えて先頭を走るソダシはまさに黄金に輝く白馬。その美しい走りが主役を張る2歳牝馬戦線、また競馬の楽しみが増えた。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
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