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【天皇賞(秋)】アーモンドアイ、クロノジェネシスに死角あり 一発逆転候補はダノンプレミアム 

2020 10/31 17:00山崎エリカ
2020年天皇賞(秋)PP指数インフォグラフィック
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ⒸSPAIA

32年間も逃げ切りが決まらない

天皇賞(秋)は1987年のニッポーテイオー以来、32年間も逃げ切りが決まっていない。歴史上は1991年にプレクラスニーが逃げ切り勝ちを収めているが、これは1着入線したメジロマックイーンの降着によるものだ。

あのサイレンススズカも5F通過57秒4の驚異的なタイムで通過したものの、大欅の向こう側に消え、逃げ馬エイシンヒカリも一度目の出走では、2番手を選択。また、逃げると思われていた3年前のキタサンブラックは結局逃げることを選択せず、道中で位置を上げてのVだった。

エイシンヒカリやキタサンブラックの鞍上、武豊騎手が逃げない選択をしたのは、特に天皇賞(秋)が行われる東京芝2000mは、良馬場でも逃げ切るのが難しいを知っていたからだろう。

なぜ難しいのかというと、Bコース替わりなどの影響も多少あるが、東京芝2000mは1コーナー奥のポケット地点からスタートすることが一番の理由だと言える。このポケットは東京芝2000mの専用のため、芝状態がとても良く、各馬の出脚がつきやすい。すぐにコーナーを迎えるので外枠の馬はすぐに切り込んでくるし、それにじゃまされまいと、逃げたい馬は序盤から加速し、2コーナーで先頭を奪うという意識で騎乗しなければならない。

序盤からスピードに乗せて行かせたうえに、さらに次の3コーナーまでの距離が長いとなると、逃げ馬は容易に息が入れられない。レースの前半3F目までが速くても4F目で息を入れれば、最後の直線での余力を残せるが、4F目でしっかり息を入れないと、最後の失速に繋がる。

これが逃げ馬が逃げ切れない理由だが、この世の万物同様に騎乗法も進化するもの。2014年以降は極端なスローペース化が起こっている。近年は逃げ馬が2コーナーで先頭を奪うのではなく、2コーナーを過ぎてからじわっと先頭を奪う意識で乗っているようだ。実際にかつては逃げ馬受難で、差し、追い込み馬台頭のレースだったが、2014年以降に良馬場で行われた年は、先行〜中団からの押し切りが目立っている。

一昨年のキセキ、昨年のアエロリットが逃げて3着に粘っているように、天皇賞(秋)で逃げ馬が逃げ切る日はそう遠くないかもしれない。キセキは出遅れが常習化しているので、今回はさすがに逃げられないと見ているが、ダイワキャグニーが内枠を利した流動的な逃げで、ダノンプレミアムは2番手が濃厚。

仮にジナンボーがまともにスタートを切って、ハナを主張したとしても、ダイワキャグニーが譲ることで、平均ペースかそれよりも遅いペースになる可能性が高い。逃げ馬が残れるかはともかく、今年も先行馬は頑張れるだろう。

2強を負かすとすればダノンプレミアム

2020年天皇賞(秋)PP指数 インフォグラフィック


アーモンドアイ、クロノジェネシスを負かすとすれば、ダノンプレミアムではないかと考える。この馬は無敗で2歳王者となり、翌年の弥生賞も優勝。クラシックでも期待されていた素質馬だ。さらにダービー6着以来の復帰戦となった昨年3月の金鯱賞では、先行して後の宝塚記念&有馬記念の覇者リスグラシューに差を詰めさせずに優勝と、高い能力を見せつけた。ここでは能力比較で見劣りしない。

確かにダノンプレミアムは今年、豪GⅠ・クイーンエリザベスSで3着、安田記念では13着と大敗したために、ここでは能力値5位以内にランクインできていない。しかし、今回はブリンカー着用で挑むとのこと。馬具で矯正することを好まない中内田調教師が使用するからには、それなりの手応えを感じているのだろう。

また、超高速馬場で行われた昨秋の天皇賞を制したアーモンドアイは1枠1番に恵まれたが、今年は7枠9番。同馬はその頃ほどの勢いがないうえに、昨年のように最内の競馬ができないとなると、余計に昨年のこのレース2着馬でもあるこの馬に食指が動く。確かにクロノジェネシスも強い馬だが、前走の宝塚記念では激流に恵まれて激走しているので、ここは指数を下げてくるはずだ。

能力値、最高値ともに1位はクロノジェネシス

クロノジェネシスは今年緒戦の京都記念を完勝すると、次走の大阪杯でも2着。前走の宝塚記念では2着馬キセキに6馬身差をつけての圧勝だった。この馬が前走で記録した指数は、アーモンドアイの最高値であるジャパンC優勝時を上回るもの。稍重〜重馬場で4戦4勝の実績が示すように、時計の掛かる馬場が得意なのは確かだが、それにしても異様な強さだった。

ただ今回は休養明けであくまで始動戦の意味合いが強く、全能力発揮とまではいかないだろう。それでも昨年の宝塚記念を完勝したリスグラシューは休養明けのコックスプレートでおそらく全能力を出さずに優勝すると、次走の有馬記念ではさらなる強さを見せて圧勝した。クロノジェネシスもリスグラシュー同様に、今回の天皇賞で全能力を出さなくても優勝できるレベルの馬。警戒は必要だろう。

1番人気が濃厚のアーモンドアイは能力値3位

アーモンドアイはすでにGIで7勝を上げ、史上最多勝タイ。ここを勝てば最多勝になるが、3歳時から活躍している馬らしく、ここへ来て勢いがなくなってきている感もある。ただ前走の安田記念は、休養明けでヴィクトリアマイルを好走した後の一戦で疲れが出て、負けるべくして負けている。これまで中5週以上で連続好走してきた同馬には、中2週は堪えたはずだ。さすがにノームコアに0.1秒差まで詰め寄られるような馬ではない。

また、マイル戦は序盤で置かれ気味になって前の位置が取れず、後半型の競馬になるので、本質的には距離が短いと思っている。ベストは楽に好位を取れる中距離だろう。また、休養明けは6戦6勝と走るので、今回は前走以上には走れると見ている。

不安点があるとすれば今年の東京芝コースは、この馬がこれまでに実績を挙げてきた超高速馬場ではないことと、相手が手強いことだろう。

能力値2位はキセキ、4〜5位は?

【能力値2位 キセキ】
前々走の宝塚記念では2着、前走の京都大賞典では休養明けながら2着するなど、ここにきて復調気配を見せている。ただ宝塚記念ではマクリ気味の競馬、前走の京都大賞典では後方からレースを進めて直線勝負の競馬。こういう競馬が続いている状況下で今回は距離が短くなり、馬場状態も高速化するとなると、レースの流れに乗ることが難しくなる。またレースの流れに乗せようと無理目に前に出して行くと、馬にとって微妙に負担になることが多い。今回はやや厳しい一戦になりそうだ。

【能力値4位 フィエールマン】
前走の天皇賞(春)は休養明けながら見事に勝利し、同一GⅠ連覇を達成した。ただし、積極的に動いて4コーナー先頭だった昨年とは勝ち方が異なり、今年はキセキの暴走により、差し馬向きの展開に恵まれたもの。前走3200m戦で後方からレースを進めた後の芝2000m戦で、キセキ同様に今回は距離が短くなる。しかも大幅な距離短縮になるので、レースの流れに乗るのが難しいだろう。加えて今回は始動戦で、目標はもっと先のはず。あまり高い評価はできない。

【能力値5位 ダノンキングリー】
昨年は休養明けの毎日王冠でアエロリットを撃破して優勝し、本番のマイルCSでは5着まで。今年は休養明けの中山記念で後の大阪杯の覇者ラッキーライラックを撃破して優勝し、本番の大阪杯では3着失速。この馬もかなり能力があるが、その能力を休養明けの前哨戦で使い切ってしまうのがネックだった。

今回はそこを考慮されてのぶっつけ本番。これが吉と出る可能性は十分ある。また前走の安田記念は7着大敗だったが、マイルもこなせるにせよ、1分31秒台のスピード決着になると厳しいのだろう。そこは2016年の天皇賞(秋)で2着と好走しているリアルスティールとよく似ているので前走は度外視したい。

ダノンプレミアム以外の穴馬を紹介

【スカーレットカラー】
現在の東京芝コースと同じくらい時計を要した昨年の府中牝馬Sでは、かなり強烈な末脚を発揮して優勝。ラッキーライラックを相手に問答無用の差し切りはインパクトがあった。今年初戦の阪神牝馬Sでも上がり最速で2着、前走のクイーンSでは直線で前が壁になって脚を使えたのはほんのわずかだったが、一瞬の加速力には異様な凄みがあった。まともならば突き抜けていただろう。結果的に前走が消化不良だっただけに、ここは怖い。展開次第の面はあるが、瞬発力はGⅠ級でも劣らないものがある。

【ブラストワンピース】
一昨年の有馬記念を優勝した実績があるように、まともに走ればここでも十分に通用する馬。今年に入ってもAJCCを優勝しているように衰えは感じない。大阪杯では前の位置を取りに行ったが、外から絞められて後方3番手まで位置を下げる形。そこから外々から追い上げる競馬でロスが多くなり、7着に敗れた。

その次走の宝塚記念は、激流なのに大外枠から出負けして好位の外まで押し上げて行く酷い競馬だった。近2走ともレースの流れに噛み合っていない。また、この馬は池添騎手のほうが手が合う。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)クロノジェネシスの前走指数「-39」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも3.9秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる女性予想家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。


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