トロワゼトワルと横山典弘騎手
ありがたいことに競馬場に入場する権利が抽選で当たった。スタンドの屋根を叩く雨音がやたらと響く静寂の競馬場はなんとも寂しく、不思議な雰囲気だった。まずは第一歩、入場門をくぐることができたことを幸いとしたい。
府中牝馬Sは雨の影響を大きく受けたレースだった。まずはここを押さえておきたい。競馬は記憶と記録が頼りであり、このレースの各馬の評価は明確に覚えるべきだろう。勝ち時計1分48秒5。過去10年、4回東京2週目に行われたが、48秒台を記録したのは今回で3回目。過去2回は良馬場で1000m通過63秒8のスローペースだった13年、やや重で1000m通過61秒9、クロコスミアが逃げ切った17年。
今年は重馬場ながら1000m通過は59秒6。馬のリズムを重視する横山典弘騎手がすでに手の内に入れているトロワゼトワル。前半から突っ込んでラップを刻む形を崩すことはない。2角から向正面に入ったあたりの序盤200m通過後から11.5-11.4-11.5、前半800m47秒4は馬場を考えれば強烈な流れだった。内側を避けつつ逃げ馬を深追いしないように折り合いに専念した番手ダノンファンタジーとの差は向正面で広がる一方。その背後にいたラヴズオンリーユー、フェアリーポルカら上位人気馬は道悪に加えて、動きにくい難しい展開となってしまった。
ダノンファンタジーがトロワゼトワルとの間合いを詰めに行った残り800~600mは12秒7。トロワゼトワルはコーナーを利用して息を入れていた。前半突っ込んで入りながら、勝負所でひと息入れる、まるで競馬を理解しているかのような狡猾さを持った馬だ。ダノンファンタジーは横山典弘騎手の悪魔的な誘いに乗ってしまった形も、人気を考えればやむを得ないところだ。並んだところから11秒8と再加速されては追う側は辛い。
結果4着だったトロワゼトワルは、道悪歓迎とはいえないタイプで距離もやや長かった印象。それでも見せた今回の走りから、充実期に入っていることがわかる。今こそさらなるタイトルが欲しい。