2024年9月に開幕予定も…大崎電気、湧永製薬も見送りの激震
2024年9月に開幕予定となるハンドボールの新リーグ「次世代型プロリーグ」は、スタート前から足元がぐらつく異例の事態となっている。
日本ハンドボールリーグ(JHL)は9月1日、新リーグの参入申請チームを発表し、男子は現行リーグの12チームから7チームと新規2チームが申請したが、強豪のジークスター東京、大崎電気、湧永製薬など5チームが参加を見合わせ、国内リーグが事実上分裂の危機に瀕する状況となった。
ジークスター東京は9月4日現在で今季の日本リーグ首位に立ち、東京五輪代表で「レミたん」の愛称で知られる土井レミイ杏利や部井久アダム勇樹ら日本代表クラスを数多く抱える人気チーム。
企業名を付けず、地域に密着した東京のチームというブランディングで新たな一歩を踏み出したが、公式サイトでプロ化への動きに賛同しつつも「今後、様々な背景を持つ各チームの意見が十分にくみ取られ、新リーグの事業計画や、ESG(環境・社会・ガバナンス)時代にふさわしい運営体制・手法、情報開示等に納得できた段階で改めて参入を検討する予定です」とのコメントを発表した。
大崎電気は1960年創部以来、スター軍団を擁してリーグ優勝6度の実績を誇る。広島を拠点とする湧永製薬は日本協会の湧永寛仁会長が社長を務め、歴史と伝統を誇る古豪チームでもあり、こうしたチームの参入見送りは「激震」といえる事態だ。
新リーグ構想は収入の一括管理がネックか
今回の新リーグ「次世代型プロリーグ構想」は野球やサッカー、バスケットボールと仕組みが異なり、チケットやスポンサー収入をリーグが一括管理して各チームに分配する「シングルエンティティ(Single Entity)」と呼ばれる米国で誕生した運営モデルが取り入れられたのが大きな特徴だ。
個々のチームがチケット販売やスポンサー営業、放送権といった事業経営を担うのではなく、リーグが一括して全チームの事業経営を担うことで多くの役割やリスクを背負うことになり、この構想に相容れないチームが申請を見送ったとみられる。
さらに関係者は理念と現実の落とし込みで双方の調整が不足した点を指摘。「11人以上のプロ契約(兼業を含む)」「チーム名に地域名」「1500人以上のホームアリーナを有する」「U-12(12歳以下)のユースチームを有する」など8項目の財務や事業の用件がハードルになった可能性に加え、登録料が新リーグでは現状の5倍の3000万円になることなども参入への大きなネックになったという。
北海道、東北は参入なし、女子は10チーム参加
オンラインで公開された9月1日の記者会見で、JHLの葦原一正代表理事は男子の5チームが申請を見送った理由について「正直、まだ分かっていない。今後、各チームにヒアリングしたい」とコメント。新リーグ構想の地域に根差したプロ化と、福利厚生を重視する実業団リーグという考え方の相違がまだある点も強調し、国内リーグが分裂の危機にある打開策や日本代表の強化への影響については具体的な言及を避けた。
今回の新リーグ構想で北海道や東北のチームも参入がなく、重要とされる地域バランスという点でも課題を残した船出となりそうだ。
一方、女子はソニーセミコンダクタ、北国銀行、オムロンなど現行リーグ11チームからザ・テラスホテルズを除く10チームが新リーグに申し込み、大きな波乱はなかった。
今後は審査委員会が財務や事業要件など8項目を審査し、10月21日に初年度の参加チームを発表する段取りだ。
新リーグは2024年パリ五輪後の開幕予定。男子で新規参入する「アースフレンズBM」は元日本代表エースの宮崎大輔が監督兼選手を務める。団体球技でも日本ではメジャーとは呼べないハンドボール界。新リーグと現行の日本リーグのどちらが「日本最高峰のリーグ」と言えるのかという難問も抱え、事実上の分裂危機をどう乗り越えていくのか。
今回参加しないチームにも2025年以降の参入申請の機会を設ける方向だが、ハンドボール界が分水嶺に立たされていることは間違いない。
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