実業団リーグから脱却、チーム名に地域名
ハンドボールの日本リーグはこれまで主に実業団チームで覇権を争い、企業スポーツの代表例ともいえる存在だった。
欧州ではサッカーやバスケットボールなどと共に白熱したバトルの人気競技に数えられるが、日本国内ではまだマイナー競技の一つ。2022年は「ハンドボール日本伝来 100 年」の節目の年でもあり、2024年2月にプロリーグを開幕させる構想に向けて新時代へ動き出している。
2021年12月、公表された「次世代型プロリーグ構想」の内容は、現在の日本リーグ(男子11チーム、女子10チーム)の大半を占める実業団チームの維持を認める一方、参入条件として①11人以上のプロ契約(兼業可)②収容1500人以上のホームアリーナの保有③12歳以下の下部組織を保有④チーム名に地域名を入れる―などを掲げている。
「世界最高峰リーグ」を目指す新プロリーグでは野球やサッカー、バスケットボールと異なり、チケット販売やスポンサー収入、放送権といった事業経営をリーグが一括管理し、各チームに分配する仕組みでスタートする。
仕掛け人はバスケBリーグ発足でも手腕
ハンドボール界でプロ化の仕掛け人となる旗振り役は、バスケットボール男子のBリーグで初代事務局長を務めた葦原一正代表理事。これまでプロ野球のオリックスとDeNAで事業戦略立案などを担当した実績もあり、日本協会によると、各チームの年間予算2億円という状況を分析した上で、投資リスクや課題を分析している。
3シーズン目のチーム平均売上目標は1.5億円に置き、従来のプロスポーツとは異なる方式で、競技の認知度アップを図る狙いだ。
JリーグとBリーグの創設に尽力した川淵三郎氏も「ハンドボールが野球、サッカー、バスケットボールに続いて第4番目のメジャースポーツになる日を楽しみにしています」とエールを送った。
リーグで収入一括管理の課題、参加締め切りは8月末まで延期に
一方でハンドボールは欧州のフランスやドイツなどでプロリーグが隆盛を誇るが、1試合の観客動員はおよそ5000人程度。サッカーのようなスーパースターを輩出する巨大マーケットではない。今回のプロ化構想で特徴的なのは、すべての収益活動をリーグが一括で担う「シングルエンティティ」と呼ばれる経営スタイルだ。
地域密着をビジョンに掲げる以上、地元スポンサーと地域ファン開拓でどこまでチケット収入につなげられるかが大きな課題。参入条件となる各チームの年会費(参加費)はこれまでの600万円から5倍となる3000万円にアップし、1500人以上のアリーナ確保も大都市圏ではそう簡単ではない。
選手の契約形態についても専業のプロ、社業と競技を並行する兼業のプロを選択できる幅を持たせた仕組みを採用する。
ただ改革の理念に賛同しても、収益モデルを巡る各チームの不安はまだ解消できていないようだ。当初は2022年3月から入会の申し込みを受け付け、2022年7月に入会審査の結果を発表する予定だったが、新型コロナウイルスの影響もあってプロリーグの入会審査日程で参加申し込みの締め切りは8月末まで延期された。
元日本代表宮崎大輔も新チームで新たな挑戦
プロリーグ構想のもう一つの目的に代表チームの強化がある。ハンドボール元日本代表の宮崎大輔が監督兼選手を務める「アースフレンズBM」も来季から参入する日本リーグに向けて第一歩を踏み出し、こうした新たな流れを歓迎している。
バスケットボール男子Bリーグ2部の東京Zを運営するGWCが設立した新興チームは選手を集め、試行錯誤しながら土台づくりから始めたばかり。宮崎自身は2021年12月に右肩の再手術を受け、選手としてコートに戻るにはまだ時間がかかりそうだが、新たな環境で「自分自身も完全燃焼したい」と意欲を示す。
「次世代型プロリーグ構想」に現日本リーグの21チーム中、はたして何チームが参加するのかは不透明だが、実業団リーグからプロ化への改革は生き残りを懸けた道でもある。
新型コロナ禍で企業の業績が落ち込み、スポーツ界は実業団の廃部なども相次ぐ。アースフレンズBMは世界で活躍する選手を育てることを目指し、強化費の拡充や公式戦への子どもたちの無料招待を実現するため、クラウドファンディングにも挑戦すると発表。前例にとらわれない新たな動きが進んでいる。
【関連記事】
・東京五輪へハンドボール主将の土井レミイ杏利が「レミたん」に変身する理由
・38歳・宮崎大輔が大学に入り直してまで追いかける五輪出場の夢
・2030年冬季五輪はいつ決まる?札幌招致は開催意義と国内支持率次第か