神戸公演、憧れの先輩に捧げる涙のフィナーレ
決意のプロ転向表明から7月で1年。フィギュアスケート男子で2014年ソチ、2018年平昌両冬季五輪2連覇を達成し、競技会から「卒業」した28歳の羽生結弦は新たなステージでも常識の枠にとらわれず、新境地を開拓して着実に活躍の幅を広げている。
6月25日まで神戸市のワールド記念ホールで3日間行われたアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」は千秋楽で涙、涙のフィナーレとなった。羽生はプロスケーター引退を表明していた先輩のジョニー・ウィアー(米国)が五輪でも使用した代表曲「秋によせて」の旋律に合わせて彼のステップを美しく再現。少年時代に憧れの存在の1人だったと公言するウィアーの新たな旅立ちに捧げる心からのプレゼントでもあった。
公演後、羽生と抱擁する場面もあったウィアーは自身のSNSで「涙、抱擁、愛、幸せ、感謝で満ちたアリーナ。私は自分が目指すチャンピオンになり、栄光の瞬間が私のために来たように感じた」と万感の思いと感謝の言葉を伝えた。
中島美嘉やDA PUMPともコラボ
今回のツアー公演では歌手の中島美嘉が歌う映画「NANA」の主題歌「GLAMOROUS SKY」の軽快な音楽に合わせ、華麗なステップも披露。俳優ディーン・フジオカとも「異色のタッグ」が実現した。
5月下旬に幕開けした千葉・幕張公演ではダンスボーカルグループ「DA PUMP」とのコラボで「動」と「静」の新たな融合の形を見せつけ、切れ味鋭いステップやヒップホップダンスで満員の観客を魅了した。
元世界王者のステファン・ランビエル(スイス)や盟友のハビエル・フェルナンデス(スペイン)、女子の坂本花織(シスメックス)ら豪華メンバーのトップスケーターとも共演。約1カ月で千葉・幕張、宮城、新潟、神戸と全国4会場を回るショーを締めくくった。
体操のレジェンドと共演も
振り返ってみれば、プロ転向後は休む間もなく、走り続けた1年でもあった。
自らが出演、プロデュースする単独アイスショーで独自の世界観を披露。競技とは異なるフィールドで壮大なチャレンジを続ける姿は氷上でフィギュアスケートの魅力だけでなく、スポーツが持つ本来の力やメッセージを国内外に届けてきた。
2022年11月に横浜市、12月に青森県八戸市でそれぞれ開催されたショーのタイトルは「プロローグ」(序章)。そして「序章」の次はさらなる挑戦として、23年2月26日にはスケーターとして史上初となる単独の東京ドーム公演「GIFT」を成功させた。ファンへの「感謝の贈り物」という思いを込めたタイトルや演技構成は製作総指揮の羽生自身が考えた。
その後も3月には東日本大震災から12年に合わせ、地元の宮城で「羽生結弦 notte stellata」を開演。体操界のキング内村航平がゲスト参加し、夏と冬でそれぞれ五輪2連覇を達成したレジェンドによる異色の共演も実現した。
タイトルの「notte stellata」はイタリア語で「満天の星」を意味する。練習中に被災して避難所生活を経験した羽生にとっては、胸に刻まれた大切な日であり「被災地を照らした満天の星のように希望を発信できれば」という特別な思いを込めた公演でもあった。
今回のアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」のツアー公演に初参加したディーン・フジオカは羽生との写真をアップし、SNSでこんなコメントをつづっている。
「羽生さんのパフォーマンスを目の前で見ることができて感動しました。同時に、自分が日本で活動を始めた頃のきっかけを思い出しました。2011年3月11日の東日本大震災で多くの方の人生が大きく変わってしまった。あれから羽生選手が世界チャンピオンとして活躍されるようになり、スケート界や日本を象徴する存在になってゆく姿を、僕は同じ日本の東北地方に所縁ある者としてずっと応援していました。羽生さんの功績は、僕を含む多くの人々の希望になっています」
多くの人に「希望」をつなぐ活動は今後も続いていく。
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