夢の4回転半ジャンプに挑んだ男子フリー
右足首痛に耐え、北京冬季五輪のフィギュアスケートで当時前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦した男子フリーから2月10日で1年。羽生結弦は94年ぶりの五輪3連覇を逃したものの、その美しい演技と不屈の闘争心で世界に鮮烈な印象を残した。
2022年7月にプロ転向を表明した後も「常に挑戦し続けることはこれからもしていきたい」と決意を口にした通り、自らの世界観を込めたアイスショーなどで新たな道を切り開いている。
「引退」の二文字は今も封印。集大成を懸けた北京冬季五輪では夢の超大技、4回転半にトライし、回転不足で転倒したが、8位と出遅れたショートプログラム(SP)から4位まで巻き返した。限界値を設定せず、ストイックに競技と向き合う姿勢はプロスケーターになっても変わらず、国内外で熱烈なファンから不動の人気を誇っている。
日中交流の懸け橋に
日中国交正常化から50周年を迎えた2022年9月29日、羽生は東京都内で開かれたイベントに特別ゲストで参加。「日中交流の懸け橋」として中国語を交えながら「日中の理解と交流のきっかけになれたら。これからの50年も共に力を合わせて頑張っていきましょう」と呼びかけた。
「ユヅ」の愛称にちなみ、中国では「柚子」(ヨウヅ)の呼び名が定着。北京冬季五輪では公式ツイッターが「山積みになった2万超のファンレター」を紹介した。大会中は新型コロナウイルス対策で国内の招待客しか観戦できなかったが、羽生の一挙手一投足に熱い視線が注がれ、大勢のファンらが会場外にも押し寄せて警察まで出動する事態が話題となった。
その人気は国境を超え、フィギュア大国ロシアや欧州、米国にも広がる。
世代を超えてインスピレーション
新時代の幕開けを告げたフィギュア男子で、数々の伝説を残した羽生の背中を追いかけるトップ選手も国内外に多い。世界初のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)成功を果たした18歳のイリア・マリニン(米国)もまた羽生への憧れを公言している1人だ。
羽生が7歳の頃からエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)に憧れ、ジャンプや技を磨いたように、世代を超えてインスピレーションを与えるスケーターの存在がいつの時代も競技力を後押しする。
新たなステージに進んだ羽生自身もプロ転向会見で「今後の活動で競技会の緊張感のようなものを味わってもらえることをしたい」「4回転半(ジャンプ)も成功させて皆さんと共有できたらいいなと強く思っている」などと語った通り、理想のスケート像を追い求めて技を研さんする日々だ。
2022年12月のアイスショー「プロローグ」では「まだ見ぬ本編に向かってご期待ください」とあいさつした。
プロ転向会見で強く印象に残ったのは「自分の中では、スケートイコール生きている、みたいなイメージ」「さらにうまくなるし、さらに見る価値があるなと思ってもらえるような演技をするために努力していく」という言葉でもあった。
これからもどんな「羽生結弦の世界」を国内外に発信していくのか。氷上での挑戦と物語はまだ続いていく。
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