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羽生結弦の伝説と小平奈緒の輝き、金4個の2018年平昌五輪名場面

2021 10/17 06:00田村崇仁
平昌冬季五輪で金メダルに輝いた羽生結弦,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

66年ぶり2連覇の歴史的快挙

魂を込めた圧巻の名演技だった。2018年平昌冬季五輪はフィギュアスケート男子で当時23歳の羽生結弦(ANA)がショートプログラム(SP)首位からフリーでも非の打ちどころがない気迫の演技で合計317.85点をマークし、男子で1948年サンモリッツ、1952年オスロ大会のリチャード・バットン(米国)以来、66年ぶりの2連覇を達成した。

あの伝説から2022年2月の北京冬季五輪で4年。歴史的偉業で国民栄誉賞も受賞し、羽生は「僕にしかできないこと、僕しか感じてこられなかったこと、僕しか学べなかったことを伝えていける存在になりたい」との言葉を当時残した。

目指すは開拓者であり、唯一無二の存在。雪と氷の祭典、冬季五輪で金メダルに輝いた歴代の日本勢の活躍を振り返ると、激動のドラマがよみがえってくる。

和の世界観「SEIMEI」、負傷に耐えた右足に感謝

2018年2月17日、男子フリー。約3カ月前に右足首を負傷した羽生は氷上に復帰し、笛や太鼓の音色からなる映画「陰陽師」の音楽で演じる「SEIMEI」の自信作で勝負を懸けた。映画で主演した狂言師の野村萬斎さんにも会ってイメージを膨らませ、安倍晴明になりきる神秘的な演目は自らも曲の編集に携わった力作だった。

4回転は高難度のルッツ、踏み切りに不安が残るループを外すことを決断したが、序盤にサルコー、トーループを完璧に決めて3点満点の加点で好発進。痛めていた右足でジャンプを着氷して流れに乗ると、後半は4回転トーループの着氷が乱れて単発になったものの、瞬時の判断で続くトリプルアクセル(3回転半)を3連続につなげて取り返した。

氷上に戻って実質1カ月で演技時間の長いフリーは体力に不安もあった。それでも最後は3回転とはいえ、負傷を誘発したルッツでも軸が大きく傾きながら意地でこらえた。

平安時代の公家が着用した「狩衣」を再現し、陰陽師の象徴ともいえる五芒星を金色であしらった衣装。滑り終えて右の人さし指を高らかに突き上げた瞬間は、もう勝利を確信していた。耐えてくれた右足首を両手でそっとなでて「右足に感謝した」と喜びを表現した。

負傷の状況を計算した緻密な戦略がはまり、和の世界観を世界に示した存在感。表現面を示す演技点は10点満点で9.5点以上が並んだ。日本選手団の大会第1号金メダルにも輝き、まさに「羽生結弦の五輪」を印象付けた快挙だった。

小平奈緒とライバルの「氷を溶かす友情」

スピードスケートの日本勢も輝きを放った。日本選手団主将を務めた小平奈緒(相沢病院)は女子500メートルで36秒94の五輪新記録を出して悲願の金メダル。日本スピード女子初の快挙で、31歳での優勝は冬季五輪の日本選手団で最年長となった。

特に小平と3連覇を逃して2位に終わった李相花(韓国)が抱擁した場面は、平昌五輪のハイライトの一つとして語り継がれるだろう。小平が地元五輪の重圧と闘った長年のライバルに「チャレッソ(よくやったね)」と声をかけると、李は「あなたを誇りに思う」と応じたという。韓国のメディアも「氷を溶かす友情」と称賛した。

日本はスピードスケート女子団体追い抜きでも、高木美帆(日体大助手)高木菜那(日本電産サンキョー)佐藤綾乃(高崎健康福祉大)の布陣で2分53秒89の五輪新記録をマークしてオランダを破り、金メダルを獲得した。

この種目が初採用された2006年トリノ冬季五輪から風洞実験で空気抵抗の研究を重ね、美しく効率的な隊列を武器に頂点に立った。

大勢で一斉に滑る新種目の女子マススタートでは高木菜那が優勝し、団体追い抜きに続く金メダル。五輪で日本の女子選手が同一大会「金」2個を手にするのは夏季を含めて史上初となった。

大会後、日本選手団主将の小平は「今回目標として百花繚乱をあげたが、たくさんの競技で皆さんがきれいな花を咲かせてくれた」との名言を残して選手団全体の活躍を総括。日本は金4、銀5、銅4の計13個のメダルを獲得し、これまで最多だった1998年長野冬季五輪の10個を上回った。

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