最高賞金総額2.5億ドルの大会も
数あるeスポーツの中で、世界中のプレイヤーから大きな支持を得ているジャンルの一つがFPS(ファースト・パーソン・シューティングゲーム)だ。その名の通りプレイヤーは操作するキャラクターの視点をプレイ画面とし、一人の兵士として仮想の戦場に身を置いているような体験ができる。作りこまれた広大なマップを自由に歩き回る探索要素。敵NPC(ノンプレイヤーキャラクター)、プレイヤーとの遭遇を警戒しながら戦場を駆け抜ける緊張感。リアルタイムに変化する戦場、地形に応じた高い戦術性。他のジャンルにはない臨場感と競技性が多くのプレイヤーを魅了している。
日本では他ジャンルに比べややマイナーなイメージだが、国外では大人気のジャンルだ。プロチームも多く、世界中で大会が開催されている。2016年の「Halo5」の世界大会「Halo World Championship」ではFPS史上最高総額2億5000万ドルの賞金が用意され、世界各国からプロチームが参戦。詰めかけたギャラリーを熱狂の渦に巻き込んだ。
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誕生は36年前 今や現実そっくり
諸説あるが一般的に、FPSと呼ばれるジャンルの歴史は1992年にアメリカで発売された「wolfenstein3D」に始まると言われている。既に1人称視点のゲームは存在していたが、プレイヤーが視点を360度動かせる点が革新的だった。
この1年後には、広大なマップを踏破する探索性と、初のマルチプレイ要素を盛り込んだ「Doom」シリーズの初代が発売。この2つのタイトルと同じ系統のゲーム群はいつしかFPSと呼ばれるようになる。
その後を追って次々と制作されたFPSゲームは、主にPC向けゲームとして定着し、技術の発達とともに美麗なグラフィック、物理法則の再現まで可能になった。リアルさを追求したタイトルでは、実際の銃器の性能を分析し現実に近い弾速、弾道、集弾率を再現しているものまであり、最早ゲームというよりシミュレーターと言っても過言ではない。
ちなみに、米国では新兵のリクルートと訓練に活用しようと、陸軍広報部が「America's Army」というタイトルを制作・運営しており、日本からもオンラインでプレイが可能だ。
日本ではあの映画が人気の火付け役
国内でFPS人気のきっかけとなったのは、1997年にNINTENDO64向けに発売された「ゴールデンアイ007」。映画「007 ゴールデンアイ」のストーリーを体験できるだけでなく、最大4人のプレイヤー同士の対戦ができる内容に全国のゲーマーが熱中した。これを機に、家庭用ゲーム機でもFPSタイトルが続々と発売されるようになる。
2000年代初頭にPlaystation2、Xboxが発売されるとその流れはさらに加速。PC向けタイトルが次々と移植され、PCだけでなく家庭用機でも有名タイトルがプレイできるようになった。2つのハードから発売された「Call of Duty」や「Halo」などの人気タイトルは日本でも大会が開催され、国内のFPS人気をけん引していく。
そして、インターネットの発達にともない、国境を越えてオンライン対戦可能になった今、日本中のプレイヤーが世界中のプレイヤーと互いの腕を競い合っている。競技人口の少なさから、これまで海外勢に遅れをとっていた日本だが、2017年7月には初の海外トッププロチームに所属する選手も現れ、日本勢と世界の差は確実に縮まっている。
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まさに兵士 FPSプレイヤーに必要な能力
世界中でしのぎを削るFPSプレイヤー、彼らにはどんな能力が求められるのか。
FPSタイトルのほとんどは、銃器をメインの武器としてプレイする。当然、射撃を行うためには照準を合わせて引き金を引かなければならない。照準はマウスもしくは、コントローラーの十字キーなどで操作するのだが、それとは別に敵プレイヤーの攻撃を避けるため、常に動き回る操作も行わなければならない。加えて、大会の多くはチーム戦で行われるため、常に地形、仲間と敵の位置、武器の残り弾数などを把握しつつ、仲間と戦況や作戦を共有する必要がある。この複雑な作業をトッププレイヤー達は正確に、瞬時にやってのける。
プレイヤーごとに主戦場とするタイトルは異なるが、トッププレイヤーは等しくこの技術を持ち合わせている。さらにプロ選手にはこの非常に高度な操作を安定して行うため、高い集中力と判断能力、メンタルの強さが求められる。大会を勝ち抜くためにはチーム全員がまさに兵士にならなければいけないのだ。
どうやって決めるFPS世界一
これまでに述べたタイトル以外にも「Overwatch」、「counter-strike」、「Team Fortress2」などが国内外で高い人気を誇っている。どれもFPSを代表するタイトルばかりだ。しかし、eスポーツとしての将来を考えた時に、逆に気になるのが人気タイトルの多さだ。
他のジャンルにも言えることだが、タイトルごとにプレイヤーが分散してしまっているため、純粋なFPS世界一を決めづらい。陸上のトラック競技、フィールド競技と同じように、FPSを競技名としタイトルを種目として分けるのか。テニスなどの芝と土の違いのように、タイトルごとの操作性や仕様の違いを環境の違いとして考えるのか。
この疑問の答えは、2022年のアジア大会種目にどのような形で採用されるかがカギを握っている。未だ採用競技は発表されていないが、プレイヤー人口の多さ、開催される大会規模から採用される可能性は極めて高い。その際に複数タイトルを選出するのか、たった一つを選出するのか。どのような形になるにせよ、選ばれたタイトルがその後の主流となるのは間違いない。アジア大会の競技種目発表は要チェックだ。
ここまで紹介したFPSは人気のジャンルだが、操作の難しさから初心者がとっつきづらいジャンルでもある。ただ、PCなどで無料でプレイできるタイトルも多く存在するので、試しに挑戦してみてはどうだろうか。一般の戦場で活動しているプロ選手もおり、運が良ければ未来の五輪王者と戦えるチャンスにも遭遇する。もしかしたら、あなたの意外な才能が見つかるかもしれない。