新王者は「チームの勝利」を強調
世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」(略してツール)の2022年大会が7月24日に閉幕した。北欧初開催として、7月1日にデンマークの首都・コペンハーゲンで開幕し、同5日に本来の舞台であるフランスへ。その後は隣国ベルギーやスイスにも足を延ばしながら、広大なフランスの地をめぐった。総距離は3349.8kmで、今回もドラマに満ちたものになった。
エトワール凱旋門の脇を通過する選手たちⒸA.S.O._Aurelien Vialatte
全21ステージトータルの総合時間で競う最大栄誉「個人総合時間賞」は、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ、デンマーク)が初優勝。前回大会で初出場ながら個人総合2位となり、以来トップライダーとして注目される存在になったが、今年の大会で頂点に立った。
25歳のヴィンゲゴーは、自国が開幕地となったこともプラスに働いて、大会序盤から好位置をキープ。パヴェと呼ばれる、フランス北部からベルギーにまたがる地域特有の道路を走った第5ステージでは度重なるバイクトラブルに見舞われながらも、アシスト選手(チームリーダーを上位に送り込むために自身を犠牲にして働く選手)の働きもあって遅れを最小限にとどめる。フィニッシュラインが敷かれた山頂付近がグラベル(未舗装の砂利道)だった第7ステージで2位になると、以降はタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ、スロベニア)との一騎打ちの様相になった。
大会中盤まではポガチャルを追う状況が続いたが、アルプス山脈を駆けた第11ステージで圧勝してトップに浮上。大会終盤はピレネー山脈をめぐったが、そこでもステージ1勝を挙げるなどして最後まで崩れることなく戦い抜いてみせた。
ヴィンゲゴーは山岳はもちろん、個々の走力が明確に表れるタイムトライアル(1人ずつ出走し、フィニッシュまでのタイムを競うレース)も得意とする。ツールのような長丁場の戦いにおいては山岳、タイムトライアルともに攻略できないと頂点に立つのは難しい。実際に、個人タイムトライアルで争われた第20ステージでは、あわや優勝(ステージ単体での優勝者も決める)かと思わせる快走を披露した。
すべてを走り終えて、ヴィンゲゴーとポガチャルについた差は2分43秒。この差は1ステージで簡単にひっくり返せるものとは言い難いので、今大会はそれだけヴィンゲゴーの走りが際立っていたと言って良い。
もっとも、ヴィンゲゴーが所属するオランダ籍のチーム「ユンボ・ヴィスマ」は、近年チーム強化が著しく、いまや自転車ロードレース界ナンバーワンともいわれるチーム力と選手層を誇っている。アシスト選手にも個人総合で上位を狙えるレベルの実力を持つ選手や、ステージ優勝を争えるだけの力を備える選手が控えており、彼らが今大会でヴィンゲゴーを支えた。
ユンボ・ヴィスマの選手・チームスタッフ全員での集合写真ⒸA.S.O._Pauline Ballet
とりわけ、今大会のポイント賞(レース途中とフィニッシュ地点での通過順位に基づき付与された得点の合計で争う賞)に輝いたワウト・ファンアールト(ベルギー)は、ヴィンゲゴーを差し置いてツールのヒーローになったと言っても過言ではないほどの大活躍。今回個人で挙げたステージ3勝は、独走・スプリント(フィニッシュ前のスピード勝負)・個人タイムトライアルと、異なる勝ち方を演じた。
競技特性上、個々の脚質(走りのタイプ)で得意とするコースは異なるが、ファンアールトに関してはどんな局面にも適応できるマルチぶりが目立った。
ヴィンゲゴーが勝った第18ステージでは、レース序盤に集団を飛び出し先行すると、終盤にかけて追いついてきたヴィンゲゴーら精鋭メンバーのグループに生き残り、最後には急坂区間でポガチャルを後ろへと追いやる驚異のペースメイクでヴィンゲゴーをアシスト(自転車ロードレース界では「前待ち」と呼ばれる戦術)。オフロード競技「シクロクロス」との兼任選手で、不整地を主戦場とするレーサー特有の心肺機能やフィジカルをロードレースにも生かしている点で、従来の概念を打ち破る選手像を築き上げている。
そのほかにも、平坦区間、山岳区間それぞれに特化したアシスト選手を擁し、ヴィンゲゴーの負担を軽くしたユンボ・ヴィスマの選手たち。2年前には、当時のチームリーダーだったプリモシュ・ログリッチが最終日前日に逆転を許し個人総合優勝を逃した経緯があり、そこからのリベンジロードを完遂させたあたりも、観る者を感動させた。
チーム一丸の勝利を強調したユンボ・ヴィスマⒸA.S.O._Pauline Ballet
ヴィンゲゴー個人に関しても、この数年での出世ぶりがすさまじい。前記した2年前の大会ではメンバー選考に名前すら挙がらず、ツールの時期は妻の出産に立ち会っていたという。昨年は大会開幕直前で出場を取りやめた選手の代替として急遽招集。そこからの大躍進で個人総合2位。そして今年、晴れてツールの王者に。地元の水産加工会社で働きながら走っていた時期もあるが、そんな過去も含めてファンの心を虜にするスター選手へと駆け上がった。
第18ステージを勝った時のヴィンゲゴーⒸA.S.O._Pauline Ballet
王者となったヴィンゲゴーは、最後の最後まで「チームが僕を勝たせてくれた」と語り続け、チームの勝利であることを強調。パリ・シャンゼリゼの最終フィニッシュではチームメートと並んでフィニッシュするパフォーマンスを見せたほか、第20ステージでヴィンゲゴーが大会制覇を決めるや出迎えたファンアールトが感激で泣き崩れたあたりは、その表れと言えるだろう。
勝利を喜ぶファンアールト(右)とヴィンゲゴーⒸA.S.O._Charly Lopez
「個人競技でありながら、チームスポーツとしての側面が強い」とされる自転車ロードレースの本質が、そこにはあった。