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「黄金のバンタム」歴代の日本最強の男たち

ボクシンググローブ,ⒸShutterstock
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Ⓒゲッティイメージズ

日本人の世界バンタム級王者は11人

「黄金のバンタム」

単に体重を区別するための階級名にそんな形容詞が付くのはバンタム級だけだ。 元々は1960年代に世界バンタム級王座に君臨したブラジルの英雄、エデル・ジョフレの異名。8度の防衛戦全てKO勝ちで無敗街道を突っ走っていたジョフレに、ファイティング原田が大番狂わせで判定勝ちしてからは、敬意を込めて118ポンド (53.5kg)の階級をそう呼ぶようになった。

ボクシング日本人バンタム級王者の表

ⒸSPAIA

その世界バンタム級王座には、これまで11人の日本人ボクサーが名を連ねてきた。ボクシング全17階級のうち、日本人が世界タイトルを獲得したのは12階級あるが、その中でも「黄金」の名にふさわしい名王者が多い。時代が違うボクサーを比較するのは難しいが、一体誰がバンタム級最強だろうか。

ジョフレを破ったファイティング原田

ファイティング原田は世界フライ級王座から陥落後、減量苦のため1階級上げてジョフレの持つバンタム級王座に挑戦することになった。戦前の予想は圧倒的不利だったが、無尽蔵のスタミナと高速連打でジョフレに判定勝ちし、2階級制覇。2度目の防衛戦でもジョフレを返り討ちにし、5度目の防衛戦でライオネル・ローズに敗れるまで計4度防衛した。

当時はWBAやWBCなどのように統括団体が分裂しておらず、ジュニアのつく階級(現在のスーパー〇〇級)もなかった。つまり、世界王者は世界に一人しかいなかっただけにベルトの価値は現代よりも高い。

しかも、フェザー級も制して2階級制覇したジョフレは生涯戦績が72勝(50KO)2敗4分。つまり、ジョフレに黒星を付けたのは原田だけなのだ。それだけ強い王者から奪ったタイトルを4度防衛した原田は、間違いなく歴代バンタム級王者の中でもリスペクトされるべき存在だろう。

日本中を熱狂させた辰吉丈一郎

1990年代のボクシング界の主役を張ったのが辰吉丈一郎だ。岡山の札付きのワルが大阪に出てボクサーとなり、強敵をなぎ倒していく。人気漫画「あしたのジョー」を地で行くバックグラウンドも手伝って瞬く間に人気が沸騰。世界王座を獲る前から「浪速のジョー」と呼ばれた。

1991年9月、プロ8戦目でリチャードソンをKOして初めてバンタム級のベルトを巻いた一戦は、その後のキャリアを通してベストバウトと言ってもいいほどの完璧な内容だった。

この頃の辰吉には今の井上尚弥と同等、もしくはそれ以上の期待がかけられていたが、網膜裂孔を患いブランクをつくることに。初防衛戦で敗れたラバナレスに雪辱して2度目の王座に就くも、今度は網膜剥離が判明。復帰後、日本中の注目を集めた薬師寺保栄との王座統一戦に敗れた。

97年、シリモンコンを左ボディで倒して3度目の王座に就いたが、2度の防衛後、ウィラポンに敗れて無冠となった。 初めて世界王座に就いた頃の華々しさに比べると、その後は眼疾など不運に見舞われることも多く、期待されたほどの実績は残せなかった。それでも3度も王座獲得し、ファンを魅了したカリスマ性は他の追随を許さない。

勝つたびに力強くなった長谷川穂積

辰吉に勝ったウィラポンからタイトル奪取したのが長谷川穂積。デビュー当初は力強さに欠けたが、ベルトを巻いてからは別人のように世界の強豪を倒しまくった。特に6度目、7度目の防衛戦は2ラウンド、8度目、9度目の防衛戦は1ラウンドで片付ける圧巻の強さで、計10度の防衛に成功した。 元来のスピードにパワーが加わり、その後、フェザー級、スーパーバンタム級も制して3階級制覇を達成。名実ともに歴代のバンタム級でも屈指の王者であることは間違いない。

「神の左」で具志堅に迫った山中慎介

具志堅用高の持つ日本最多記録の13度防衛に迫ったのが山中慎介だ。「神の左」と呼ばれた切れ味抜群の左ストレートを武器に、無敗のまま世界王座を獲得。その後も5連続を含む8度がKO防衛という圧倒的な強さで、防衛記録を12度まで伸ばした。 ネリに連敗して現役を退いたが、強烈な左ストレートは歴代バンタム級王者でも屈指だ。

バンタム級では試されていない井上尚弥

最後は、WBSS(ワールド・スーパー・ボクシング・シリーズ)バンタム級トーナメントでも優勝候補筆頭に挙げられている井上尚弥。スピード、パワー、ディフェンス、どれを取ってもバンタム級はおろか、日本が生んだ歴代世界王者の中でも「最強」の呼び声が高い。

ただ、あくまでバンタム級だけで見ると、まだ防衛は1度のみ。WBSS優勝なら最強の証明となるだろうが、現時点では試されていない部分もある。

例えば、中南米に多い変則的な選手に乱打戦に巻き込まれ、リズムを失ってあれよあれよという間に判定負け…というパターンもないとは言い切れない。逆にパワフルな強打を顎にもらってワンパンチでKO負け……という可能性もある。 もちろん全て仮定の話で、杞憂に終わるかも知れない。もし、原田や辰吉、長谷川、山中と戦っても井上が勝つシーンは想像できる。今後の期待値も含めると、やはり井上をバンタム級最強に推したい。