比嘉大吾にダウン喫するも僅差の判定勝ち
プロボクシングのWBOバンタム級タイトルマッチが3日、東京・有明アリーナで行われ、王者・武居由樹(28=大橋)が同級1位・比嘉大吾(29=志成)に判定勝ちし、初防衛に成功した。
K-1からボクシングに転向して9戦目でベルトを巻いた武居と15連続KOの日本タイ記録を持つ元WBCフライ級王者・比嘉の一戦は序盤から白熱の打撃戦。リーチで勝る武居が頭を下げて前進する比嘉に右アッパーを突き上げてペースを掌握したが、挑戦者も強烈な左フックを振り回し、時折、王者をロープに詰めて連打するなど、いつ終わってもおかしくないハラハラする展開が続いた。
11回には比嘉が左フックを当て、この試合唯一のダウンシーンが訪れる。足を滑らせた武居はスリップをアピールしたが、レフェリーは8カウントを数えた。
最終回は武居が猛反撃。ガス欠となった比嘉は一方的に攻められながらも辛うじてダウンすることなく終了のゴングを聞いた。
ジャッジは115-112が1人と114-113が2人。11回終了時点でジャッジ2人は104-104だったため、仮に最終回を比嘉が取っていれば結果は逆になっていただけに惜しまれる敗戦だった。
とはいえ、白熱の攻防は見応え十分。ダウンシーンのないまま終わったメインより観客を楽しませたことは間違いない。戦績は武居が10戦全勝(8KO)、比嘉は21勝(19KO)3敗1分け。6年ぶりの世界戦に敗れた比嘉は試合後に引退を表明している。
ⒸLemino/SECOND CAREER
「天心選手とやりたい気持ちが強い」
薄氷を踏む初防衛となった武居は試合後のインタビューで、10月14日にWBOアジアパシフィックバンタム級王座に挑む那須川天心(26=帝拳)に「10月の天心くん、頑張ってください。応援しています」とエールを送った。
キックボクシング時代に2人の対戦はなかったが、天心も武居の後を追うようにボクシングに転向。RIZINでカリスマ的人気を誇った「神童」は、ボクシング転向後4連勝で世界ランキングに入っている。
武居がベルトを持つWBOでは10位だが、WBAとWBCでは3位まで上昇。天心が次戦でWBOアジアパシフィックバンタム級王座を奪えば、近い将来、両雄が対戦する可能性も十分にある。
記者会見では「ファンの方から天心選手との試合を観たいという声が多いし、僕も天心選手とやりたいなという気持ちが強い」とエールを送った意図を説明。日本選手が4団体の王座を独占し、日本人世界ランカーが多数いるバンタム級の中でも、ファン垂涎の好カード実現へ前向きな姿勢を鮮明にした。
ディフェンス面に課題残した武居
ただ、この日の武居の出来を見る限り、天心戦が実現しても不安を感じずにはいられない。
武居は比嘉の大振りのフックや左ジャブをまともに受けるシーンがあった。左まぶたをカットした影響もあっただろうが、天心は比嘉以上にスピードがあり、カウンターもうまい。ボクシング転向当初は力強さに欠けるきらいがあったものの、7月に行った4戦目ではジョナサン・ロドリゲス(アメリカ)に見事な3回TKO勝ちを収めている。
武居は身長170センチとバンタム級にしては背が高い方だが、スタンスが広いため頭の位置が低く、あまり身体面の特長を活かせていない。ガードも堅いとは言えず、天心の速い左ストレートをまともにもらうリスクがある。
八重樫東トレーナーは、今回の苦戦について「比嘉選手が左フックを振って入ってくるのは誤算だった。右ストレートを使うパターンを想定していたが、予想以上に右で入ってこなかった。最後まで対処できなかった」と作戦ミスの責任を背負い込んだ。
比嘉陣営の戦術が白熱の大接戦を呼んだ側面もあるとはいえ、試合中に臨機応変に対応するのもボクサーの能力のうちだ。相手のジャブやストレートをグローブで振り落とすパーリングを身に付けるなどディフェンス面を改善しないと、スピードのある相手に苦戦する懸念がある。打ちつ打たれつの消耗する試合を続けていてはボクサー生命まで縮めるリスクも否定できない。
まだボクシングに転向して10戦しかしていない武居にとって、比嘉戦は最高の「良薬」となったはず。熱望する天心戦が実現するまで腕を磨き、比嘉戦以上の好ファイトを期待したい。
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