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井上尚弥も参考になる?無敗で4階級制覇した名ボクサーたちの初黒星

2024 5/29 06:00SPAIA編集部
トリニダードに初黒星を喫したデラホーヤ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

無敗で4階級制覇は井上尚弥を含めて5人だけ

プロボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(31=大橋)は5月6日の東京ドーム決戦でルイス・ネリ(29=メキシコ)を6回TKOで下し、戦績を27戦全勝(24KO)に伸ばした。

日本で2人目の4階級制覇、世界で2人目の2階級で4団体統一と、記録にも記憶にもその名を刻み続けるモンスター。もはやスーパーバンタム級に敵はいないのではないかと思われるが、フェザー級に転向して5階級制覇も視野に入れる井上が、いつか敗れる日が訪れるのか誰にも分からない。

井上自身が口にしているように、ボクシングはたった1度の敗戦が大きく影響するスポーツ。4団体統一王座をかけて戦う以上、1度でも負ければ無冠になる。もちろん、試合内容や他選手の状況などにもよるが、商品価値は下落し、井上に秋波を送っていた世界中の関係者の視線は新王者に向けられる。

負ける怖さや敗戦へのプレッシャーは経験した者にしか分からないだろう。だからこそボクサーはハードなトレーニングに打ち込むのだ。

それでも、ほとんどのボクサーはいつか負ける。これまで無敗で4階級制覇したのは井上を含めて5人いるが、無敗のまま引退したのは50戦全勝(27KO)のパーフェクトレコードを残したフロイド・メイウェザーだけだ。スーパースターたちの初黒星を振り返ってみたい。

オスカー・デラホーヤ

1992年バルセロナ五輪ライト級で金メダルを獲得したオスカー・デラホーヤ(アメリカ)は同年11月にプロデビュー。1994年3月に12戦目でWBOスーパーフェザー級王座を獲得すると、同年7月にWBOライト級王座も奪取して、あっという間に2階級制覇を果たした。

さらに1996年6月にはWBCスーパーライト級王者フリオ・セサール・チャベス(メキシコ)に挑み、4回TKO勝ちで3階級制覇。1997年4月にテクニシャンとして知られたWBCウェルター級王者パーネル・ウィテカー(アメリカ)に判定勝ちして4階級制覇を達成した。

その後もヘクター・カマチョ(プエルトリコ)やアイク・クォーティ(ガーナ)ら難敵を退けて7度防衛。1999年9月に統一戦を行ったのがIBFウェルター級王者フェリックス・トリニダード(プエルトリコ)だった。

デラホーヤは当時26歳、デビュー以来無傷の31連勝(25KO)をマークしていた。一方のトリニダードもIBF王座を14度防衛し、35戦全勝(30KO)。スーパースター同士の頂上決戦は「ファイト・オブ・ザ・ミレニアム(1000年に1度の世紀の対決)」と銘打たれ、世界中の注目を集めた。

立ち上がりからデラホーヤはフットワークを使い、じりじりと距離を詰めるトリニダードと手に汗握る攻防。中盤、手数は少ないものの的確なクリーンヒットでポイントを奪ったデラホーヤは、終盤にトリニダードの反撃に遭いながらも無理な打ち合いはせず12回終了のゴングが鳴った。

ジャッジは2-0(115-113、115-114、114-114)の僅差でトリニダードを支持。デラホーヤはポイントで勝っていると踏んで逃げ切りを図ったことが災いし、「計算ミス」で初黒星を喫した。

デラホーヤはこの試合以降8勝6敗。ミドル級王座まで奪って史上初の6階級制覇を果たしたが、ボクサー人生として見れば初黒星以降、下り坂だった。

ローマン・ゴンサレス

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)は軽量級で4階級制覇し、日本選手との対戦も多いため、日本でも「ロマゴン」の愛称で有名だ。

「ニカラグアの貴公子」と呼ばれた元3階級制覇王者アレクシス・アルゲリョの指導を受け、2005年にプロデビュー。2008年9月、横浜で新井田豊に4回TKO勝ちしてWBAミニマム級王座を奪取すると、高山勝成らを下して3度防衛後の2010年10月にWBAライトフライ級王座も獲得して2階級制覇した。

2014年9月にはWBCフライ級王者・八重樫東に9回TKO勝ちで3階級制覇。2016年9月にはWBCスーパーフライ級王者カルロス・クアドラス(メキシコ)に判定勝ちして4階級を制覇した。

この時点で46戦全勝(38KO)。パウンド・フォー・パウンド1位にランキングされ、「世界最強」の名を欲しいままにしていた。

しかし、2017年3月にマディソン・スクエア・ガーデンで行われた初防衛戦。シーサケット・ソー・ルンヴィサイ(タイ)にまさかの判定負けでプロ初黒星。同年9月のダイレクトリマッチではシーサケットに4回KOで敗れ、当時WBOスーパーフライ級王者だった井上尚弥との対戦も期待されながら実現しなかった。

ロマゴンはその後、スーパーフライ級王座に復帰したが、2021、22年にファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)と2度戦って連敗。現在36歳だが、7月にバンタム級で再起戦を行うことが報じられている。

ミゲル・アンヘル・ガルシア

ミゲル・アンヘル・ガルシア(アメリカ)は2006年7月にプロデビュー。2013年1月にオルランド・サリド(メキシコ)に8回負傷判定勝ちし、WBOフェザー級王座を獲得した。

2013年11月にWBOスーパーフェザー級王座、2017年1月にWBCライト級王座を奪って3階級制覇。2018年3月にはIBFスーパーライト級王者セルゲイ・リピネッツ(ロシア)に判定勝ちで4階級制覇を果たした。

スーパーライト級王座は返上して2018年7月にはIBFライト級王座も獲得。ここまで39戦全勝(30KO)と無敗レコードを伸ばし、2019年3月に5階級制覇を狙ってIBFウェルター級王者エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)に挑んだ。

王者も24戦全勝(21KO)と無敗同士の大一番。しかし、ウェルター級で初めてのリングだったガルシアは大差の判定負けで初黒星を喫した。

その後、再起したが、2021年10月に格下に敗れて引退。5階級制覇は夢のままグローブを吊るした。

要因は体格負け、肉体的衰え…

やはり共通して言えるのは、階級を上げるほど相手の体格も大きくなり、ビハインドを背負うこと。デラホーヤは身長179センチもあり、デビューしたスーパーフェザー級では破格の高身長だったため、筋肉をつけることで6階級目のミドル級でも体格負けはしなかったが、多くの場合はそうではない。

当然ながら階級を上げていくうちに年齢を重ね、スピードや動体視力、反射神経など肉体的に衰えるリスクも高まる。だからこそ、階級を上げても無敗をキープする価値は高いのだ。

井上尚弥もデビューはライトフライ級で、フライ級を飛ばしてスーパーフライ級に転向した。今後、5階級制覇を狙ってフェザー級に上げれば、自分より大きな相手がほとんどだろう。

それでも日本が誇るモンスターなら常識を覆してくれるのではないか。そんなことを夢想しながらリング上の井上尚弥に目を凝らしたい。

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