アストロラビオにボディー一発でKO勝ち
プロボクシングのWBCバンタム級王者・中谷潤人(26=M.T)が20日、東京・両国国技館で同級1位ビンセント・アストロラビオ(27=フィリピン)に1回2分37秒KO勝ちし、初防衛戦に成功した。
突然の幕切れだった。お互いに様子を見ながら進んだ1回2分20秒過ぎ、中谷は右ジャブを挑戦者のガードの上から当て、続けて放った左ストレートがボディにヒット。一呼吸置いてから表情を歪めてうずくっまったアストロラビオは一度は立ち上がったものの、すぐにしゃがみ込んだ。
衝撃の157秒KO劇。これで28戦全勝(21KO)に戦績を伸ばしたが、1回KOは日本フライ級王座を獲得した直後の2019年6月以来、世界戦では初めてだ。
リング上のインタビューでは「ちょっと早すぎたかなというのはある。すみません、もっと良いパフォーマンスができるようにこれからも頑張ります」とあっけないノックアウト勝利を“謝罪”。ロサンゼルスで何度も一緒にトレーニングしてきた仲で、この日のアンダーカードで加納陸(26=大成)に3回KO勝ちしてWBO世界フライ級新王者となったアンソニー・オラスクアガ(25=アメリカ)と喜びを分かち合った。
今後はWBA同級王者・井上拓真(28=大橋)やその兄で1階級上、スーパーバンタム級の4団体統一王者・井上尚弥(31=大橋)との対戦が期待される。中谷は「(拓真は)やりたい選手の一人なので、そこに向けてしっかり準備していきたい。(尚弥戦は)まだまだですけど、ひとつずつ勝っていけば自ずと実現すると思う」と意欲を見せた。
今後は「バンタム級最強決定トーナメント」、“ラスボス”は井上尚弥?
バンタム級は主要4団体いずれも日本人王者。WBCの中谷、WBAの井上拓真、IBFの西田凌佑(27=六島)、WBOの武居由樹(28=大橋)が君臨しており、ランカーにもこの日快勝した那須川天心(25=帝拳)ら日本人が多いだけに、必然的に統一戦の期待が高まる。
統一戦は各団体の指名期限や細かいルールの違い、各陣営の思惑などが複雑に絡み合うため実現は簡単ではないが、ファンの望む好カードを実現すれば、日本ボクシング界の発展につながることは間違いない。今後は「バンタム級最強」を決めるトーナメントの様相を呈していくだろう。
そして、その大本命である中谷がバンタム級を統一し、1階級上の“ラスボス”井上尚弥に挑戦するという夢のようなシナリオは決して絵空事ではない。井上尚弥は「あと2年くらい」スーパーバンタム級に留まる意向を示しており、中谷との対戦が実現する可能性は十分にある。
もはや、これは1980年代に世界中のボクシングファンを熱狂させたシュガー・レイ・レナードとトーマス“ヒットマン”ハーンズに匹敵するビッグマッチと言っていい。
「史上最高の名勝負」レナードvsハーンズ
1981年9月16日、アメリカ・ラスベガス。WBCウェルター級王者レナードは30勝(21KO)1敗、WBA同級王者ハーンズは32戦全勝(30KO)を誇るライバル同士だった。
身長185センチのハーンズは長いリーチを活かしてレナードの目を腫れ上がらせるが、猛反撃に転じたレナードは14回に大逆転TKO勝ち。今も「史上最高の名勝負」と語り継がれるスーパーファイトだった。
2人は1989年6月にもスーパーミドル級王座をかけて対戦し、12回引き分け。マービン・ハグラーやロベルト・デュランも交えた当時の「黄金の中量級」は、紛れもなく世界のボクシングシーンの中心だった。
2人を例えるなら万能型の井上尚弥がレナード、長身の中谷潤人がハーンズだろうか。近い将来に実現が期待される軽量級史上最高のビッグマッチ。我々は後世に語り継がれる歴史の1ページをリアルタイムで目撃しているのかもしれない。
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