24戦全勝(21KO)の井上尚弥
日本が世界に誇るボクシング界のスーパースター、井上尚弥(30=大橋)は、ここまで24戦全勝(21KO)のパーフェクトレコードを残している。
「モンスター」の異名通り、軽量級離れした破格の強打とスピードで並み居る世界の強豪を倒してきた。今や勝つことは当たり前、どんなKOシーンを見せてくれるのかに焦点が当たるほどの無敵ぶりだ。
ここまで強くなると、井上が倒し切れなかった3度の判定勝ちが違う意味で目立つ。最終回終了のゴングを聞いた3試合を改めて振り返ってみたい。
日本ライトフライ級王者・田口良一戦
プロキャリア初の判定勝利は4戦目だった。2013年8月25日、日本ライトフライ級王者・田口良一(ワタナベ)戦だ。
田口は後にWBAライトフライ級王座を7度防衛し、IBF王座も奪って2団体統一王者となった右ボクサー。当時は日本王者になったばかりで初防衛戦の相手に井上を選んだ。
プロで3戦しかしていない当時から井上の評価は高く、戦前の予想は挑戦者有利。しかし、ガードを固めてリードジャブを突く基本に忠実な王者・田口は予想以上に打ち合いを挑んだ。
一見、ひ弱そうに見える田口は持ち前の負けん気の強さを発揮して、打たれるたびに前進。スピードに勝る井上がポイントを奪うものの、田口も時折クリーンヒットして場内を沸かせた。
ダウンシーンこそなかったが、壮絶な打撃戦のまま10ラウンド終了のゴング。判定は97-94、98-93、98-92と3-0で井上の判定勝ちだった。
井上は辰吉丈一郎に並んで当時日本最速の4戦目で日本タイトル獲得。まだ成長途上のキャリア前半とはいえ、井上が最も苦しんだ試合のひとつだった。
田口も井上に敗れた悔しさをバネに、2014年大晦日に世界王座を獲得。両者にとって意味の大きいファイトだった。
スーパーフライ級2度目の防衛戦・カルモナ戦
2度目の判定勝利は2016年5月8日に行われたWBOスーパーフライ級王座2度目の防衛戦、デビッド・カルモナ(メキシコ)戦だった。
同王座を11度防衛していたオマール・ナルバエス(アルゼンチン)をたった2回でノックアウトするなど逞しさを増していた井上は、1位挑戦者カルモナに対しても1回からビッグパンチを連発。早い回でのKO勝ちを予期させたが、思わぬアクシデントに見舞われる。
2回に右拳を痛め、左一本での戦いを余儀なくされたのだ。以降は足を使いながら左でポイントを奪うものの、右を思い切り打てないためダウンシーンは訪れない。
最終12回、ポイントでリードした井上はKOを狙ってプレッシャーを強める。ほぼ一方的に攻め続け、残り30秒でついにダウンを奪うが、倒し切ることはできなかった。
判定は118-109の大差が2人と116-111が1人の3-0。同じ判定勝ちでも、最後にラッシュで観衆を魅了するプロフェッショナリズムを感じさせた試合だった。
WBSS決勝・ドネア戦
3度目は2019年11月7日、WBSS(ワールドボクシングスーパーシリーズ)バンタム級決勝のノニト・ドネア(フィリピン)戦だ。
5階級制覇した「フィリピンの閃光」は、バンタム級最強を決めるに相応しい相手だった。2回、強烈な左フックを顔面に浴びた井上はキャリアで初めて右まぶたをカットする。
流血するハンデを負いながらのファイトとなった井上は大苦戦。それでも持ち前のパワーとスピードで互角以上の打ち合いを展開し、11回には強烈な左ボディブローでダウンを奪った。
この時のレフェリーがロングカウントだったという指摘もあったが、ドネアは辛くも立ち上がって試合続行。最終回も両者が足を止めて打ち合い、終了のゴングが鳴った。
判定は116-111、117-109、114-113の3-0。井上にとっては、プロ24戦で最も苦戦した試合だろう。
7月25日にはWBC・WBOスーパーバンタム級王者スティーブン・フルトン(アメリカ)に挑む井上。ド派手なノックアウトで4階級制覇を果たすのか、あるいはテクニシャンの王者を捕まえ切れずに判定までいくのか。運命のゴングが待ち遠しい。
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