IBAの承認取り消し、米国や英国は新団体
古代五輪で紀元前7世紀から行われ、近代五輪では1904年の第3回セントルイス大会で初採用となった伝統競技のボクシングが国際オリンピック委員会(IOC)と組織運営を巡って全面対決し、大混乱に陥っている。
IOCは6月22日の臨時総会で、長引く対立で関係修復が困難となっていた国際ボクシング協会(IBA)の統括団体としての承認取り消しをついに決定した。バッハ会長はオンラインでの投票前に「ボクシングやボクサーに問題はない。深刻なのはIBAのガバナンス(統治)だ」と訴えたが、委員から大きな異論も出ず、賛成69、反対1の投票結果で可決された。
欧米の報道によると、IBAのロシア人会長はプーチン大統領にも近いとされるスポーツ界の大物ウマル・クレムレフ氏。ロシア国営のエネルギー企業「ガスプロム」に財政面で依存してきたことも問題視され、4月にはIBAに対抗して米国や英国が新団体「ワールド・ボクシング」を設立するなど分断と混乱が表面化していた。
一方、ロシアの影響力や資金を背景にするIBAは「IOCは重大な過ちを犯し、世界のボクシング界にとって最悪の決定だ」とすぐさま批判声明を発表し、訴訟も含めて強気の対決姿勢を崩していない。
リオ五輪では不正判定や八百長騒動も
そもそも五輪のボクシング問題が勃発したのは、2016年リオデジャネイロ大会にさかのぼる。選手やコーチから判定に不満の声が相次ぎ、複数のレフェリーや採点担当のジャッジが必要な水準にないとして大会から除外する異例の事態が起きた。
男子バンタム級準々決勝でロシア選手に判定で敗れた当時世界王者のマイケル・コンラン(アイルランド)がロシアのプーチン大統領のツイッターに「ジャッジはあなたにいくら請求してきたのか」と皮肉めいたメッセージを送り、物議を醸したことでも国際的な話題になった。
一方、八百長行為とは認定されなかったが、リオ五輪期間中にコンランらボクシング3選手の賭け行為も発覚し、厳重注意処分を科されている。
2018年2月、IOCのバッハ会長はこうした一連のボクシングのガバナンスや審判の判定問題を受け、東京五輪の実施競技から除外する可能性を警告。その後、統括団体を資格停止処分にした経緯がある。
2021年の東京五輪でボクシングはIOCの特別作業部会(渡辺守成座長)が運営を主導して実施された。2024年パリ五輪も「選手保護」の観点から予定通り競技は実施するが、IBA管轄下では行わない方針を決めている。
ロシア制裁解除、世界選手権ボイコット相次ぐ
2022年10月、クレムレフ氏が会長のIBAはロシアのウクライナ侵攻を受けて科していたロシアとベラルーシ選手への制裁を解除した。さらに両国選手の国旗、国歌の使用を支持し、こうした決定に反発した米国やウクライナ、英国が2023年の世界選手権を相次いでボイコット。ボクシング界の分断は深刻な事態に陥っている。
五輪のボクシングは長い歴史と伝統があり、かつてモハメド・アリ(米国)が1960年ローマ大会で金メダルに輝いた。日本勢は1964年東京大会で桜井孝雄が初の金メダルを獲得し、女子が初めて実施された2012年ロンドン大会で村田諒太が2人目の王者に就いた。2021年東京大会では入江聖奈が日本女子初の頂点に立っている。
ボクシングを巡る泥沼の対立は解決の糸口が見えないが、IOCは「五輪除外」の可能性をちらつかせながら、保留扱いとなっていた2028年ロサンゼルス五輪でもボクシングを実施競技として維持する方針を打ち出している。
ロシアの影に揺れ、国際政治の縮図のようにも映るボクシング界の現状。IOCは対応に頭を悩ませている一方で「選手は救済したいが、さすがに限界もある」(関係者)との意見も出ており、このまま組織運営の分断と混乱が解決されなければ、将来的に「五輪除外」の可能性も否定はできない。
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