オラスクアガに9回TKO勝ち
プロボクシングのWBA・WBC世界ライトフライ級統一王者・寺地拳四朗(31=B.M.B)が4月8日、東京・有明アリーナで行われた防衛戦でWBA4位のアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)に9回58秒TKO勝ちし、WBC2度目、WBAは初の防衛を果たした。
当初はWBO同級王者ジョナサン・ゴンサレス(31=プエルトリコ)との3団体統一戦が予定されていたが、ゴンサレスがマイコプラズマ肺炎を患ったためキャンセル。急遽、4月15日に韓国で白石聖(26=志成)と51.9キロ契約の8回戦に臨むために東京都内で調整していたオラスクアガとの防衛戦に変更された。
寺地有利の声が圧倒的に多かったが、蓋を開けると、プロで5戦(5勝3KO)しかしていない急造挑戦者は予想以上に善戦。力強い左右フックを振り回し、時折2団体統一王者の顔面を捉えた。そのたびに場内からどよめきが起こるほど強烈なパンチだった。
3回に寺地がダウンを奪い、その後も左ジャブを効果的にヒットしてポイントではリード。オラスクアガは徐々にダメージを蓄積していくが、ラウンド後半には驚異的な粘り腰で反撃するなど、パワーとタフネスは間違いなく世界トップクラスだった。
寺地がまともにパンチをもらうシーンもあり、一進一退の攻防。挑戦者の大逆転KO劇が訪れてもおかしくない空気が漂ったが、9回に寺地が足を止めて真正面から打ち合うと、最後は挑戦者がロープ際に崩れ落ちるように倒れ、レフェリーが試合を止めた。
試合終了直後には涙を流してセコンドへの感謝を述べるなど心身ともに疲れ果てた様子だった寺地。自身のインスタグラムではオラスクアガとのツーショット写真を公開し、「たくさんの応援ありがとうございました。トニー強かったー。自分もすごく成長できる試合やったなー!!頭痛い」と激闘を振り返った。
大方の予想は那須川天心デビュー戦がメイン
今回の興行の目玉は那須川天心(24=帝拳)のデビュー戦。2月の発表会見当時は試合順は未定だったものの、天心が会見場の真ん中に座ったこともあり、メインイベントとして行われるだろうという見方が多かった。
1992年に米俳優ミッキー・ロークがプロボクサーとして両国国技館で6回戦のリングに上がった際は、ユーリ海老原の世界戦を差し置いてメイン扱い。ビッグスターがアンダーカードに出場すると、終了時点でメインイベントを見ずに観客が帰ったり、テレビのチャンネルを替えられたりする恐れがあるため、最後に持ってきた前例があった。
当然ながら目の肥えたボクシングファンは、そういった興行優先の姿勢は世界王者に失礼だと憤るのだが、プロボクシングが人気商売である以上、仕方ない面もある。今回も寺地の防衛戦や井上拓真(27=大橋)のWBAバンタム級王座決定戦を差し置いて、天心がメインを張るのだろうと予想されていたわけだ。
堂々メインイベンターを務めた拳四朗
しかし、試合4日前に発表された試合順は、天心は5試合中3試合目。セミファイナルに井上拓真、メインイベントに寺地がセットされた。
今回はAmazonプライムビデオで配信されたが、もしテレビの地上波だったら天心がメインになっていたかも知れない。放送時間が限られたテレビでは生中継する試合は1試合のみがほとんどで、ダブル世界戦でもトリプル世界戦でも、メイン以外は録画で数分間のハイライト映像を流すのみということが多かった。
実際、寺地はこれまで何度も辛酸を嘗めている。左ジャブで距離を取るアウトボクシングは関係者からの評価は高いものの迫力に欠けるため、メインは張れない。世界王座を8度も防衛しながら村田諒太や井上尚弥の前座として行われることがほとんどで生中継されないことが多かった。
それが今回は前座から全て生中継する動画配信ということもあり、世界王者に敬意を表した試合順。関係者の英断と言っても大袈裟ではないだろう。
さらに寺地もそれに応えるだけの試合でファンを魅了した。早くも今年の年間最高試合に推す声もあるほど濃密な9ラウンド。プロスポーツは選手の名前ももちろん重要だが、やはり試合内容は人気や知名度を凌駕するということを証明した寺地の熱いファイトだった。
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