パリクテに10回TKO勝ち、世界戦最多15勝目
ボクシングのWBO世界スーパーフライ級王座決定戦が千葉・幕張メッセで行われ、同級2位の井岡一翔(Reason大貴)が1位のアストン・パリクテ(フィリピン)に10回TKO勝ちし、日本男子初の4階級制覇を達成した。
序盤はお互いにジャブを突きながら様子を見る静かな立ち上がりだったが、中盤以降パリクテが攻勢に出ると井岡も応戦。少しずつダメージを蓄積させ、迎えた10回、井岡の右ストレートでぐらついたパリクテにラッシュを浴びせるとレフェリーが試合を止めた。
井岡は2年2カ月ぶりの国内での試合で、具志堅用高に並んでいた日本人世界戦最多勝記録を15に伸ばし、単独最多となった。
引退、離婚、ジム移籍…足踏み続いたスピードスター
日本最速(当時)の7戦目で世界王座に就き、世界最速(当時)の18戦目で3階級制覇を果たすなど、数々のスピード記録を塗り替えてきた井岡も、ここ数年は足踏みが続いた。
2017年4月にWBAフライ級王座5度目の防衛を果たし、5月に歌手の谷村奈南と結婚。幸せの絶頂かと思われたのも束の間、11月に王座返上すると、大晦日に突然、現役引退を発表した。一部報道では父親でジム会長の井岡一法氏との確執も伝えられた。
翌18年7月には、井岡ジムではなく米国に拠点を移して現役復帰することを表明。11月には離婚して、まさしく一からの出直しとなった。大晦日にマカオでドニー・ニエテス(フィリピン)とのWBOスーパーフライ級王座決定戦に臨んで判定負けしたものの、そのニエテスが王座返上したため再び巡ってきたチャンスだった。
4月下旬から約8週間の米ラスベガスキャンプでは、キューバ出身の名トレーナー、イスマエル・サラスの指導を受け、徹底的に鍛え直した。フライ級時代より胸囲1.1センチ、首回りは3.1センチ大きくなり、階級を上げても体負けしない肉体にビルドアップ。6月13日には来日したフロイド・メイウェザーから「5階級制覇を目指そう」と激励され、ベルト奪回への思いを強くしていた。
アジアで4人目、日本男子初の快挙
4階級以上制覇した男子ボクサーは、長いボクシングの歴史上でも井岡を含めて世界にわずか20人しかいない。そのほとんどがボクシングが盛んな米国と中南米の選手で、アジアでは6階級制覇したフィリピンの英雄、マニー・パッキャオやノニト・ドネア、井岡が昨年敗れたニエテスに次いで4人目の快挙だ。
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日本に限れば、女子は藤岡奈穂子が5階級制覇しているが、男子は3階級制覇でさえ、初めて達成した亀田興毅以降、井岡を含めて6人しかいない。井上尚弥や田中恒成、八重樫東は現在も現役のため、いずれ4階級制覇を達成する可能性があるものの、「日本男子初」の肩書きが付くのは井岡だけだ。
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叔父・弘樹氏は「日本初」の3階級制覇ならず
叔父の井岡弘樹・現井岡弘樹ジム会長も「日本初」の偉業に挑んだボクサーだった。
現在も国内最年少記録の18歳9カ月、当時国内最速タイの9戦目でWBCミニマム級王座を獲得すると、当時36戦全勝、17度防衛中だった柳明佑からWBAライトフライ王座を強奪して2階級制覇。しかし、ライトフライ級王座陥落後は日本では誰も成し遂げていなかった3階級制覇を狙って世界タイトルに4度挑戦したが、いずれも失敗に終わり、最後は後に世界王者となる徳山昌守にノンタイトル戦で敗れて引退した。一翔はそんな叔父の無念をも晴らす「日本男子初」の称号を手にしたことになる。
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八重樫、田中、井上戦実現なら盛り上がり必至
さて、気になる今後はどういう展開が待ち受けるのだろうか。スーパーフライ級には、井岡と同じく4階級制覇を目指す八重樫東がランキングに入っており、ミニマム級王者時代に統一戦で勝ったライバルとの再戦が実現すれば、日本中の注目を集めるビッグマッチとなる。
また、同じく3階級制覇しているWBOフライ級王者の田中恒成も井岡との対戦を希望しており、4階級目のベルトを狙っている。
ただ、井岡自身は他団体王者との統一戦に関心を示している。25戦全勝(15KO)のWBA王者、カリ・ヤファイ(英国)や39勝(26KO)3敗のWBC王者、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)らとの統一戦に勝てば、海外での評価も一気に高まるだろう。
仮にメイウェザーの進言通り、バンタム級に上げて5階級制覇を目指すとなれば、日本が誇る“モンスター”井上尚弥とのドリームマッチにも期待が高まる。井上はWBSSが終わればスーパーバンタム級に上げる可能性があるため実現の可能性は低そうだが、世界中に猛者が揃う階級だけに楽しみは尽きない。