前人未到のWリーグ11連覇
ついにWリーグもファイナルを迎えた。今季の顔合わせは、11連覇を狙うJX-ENEOSと1967年の日本リーグ創設からトップリーグに参戦し、まだ優勝経験がない三菱電機となった。
第1戦を91-68で圧勝したJX-ENEOS。第2戦も出だしから好発進し、#52宮澤夕貴、#11岡本彩也花らが得点を重ねていく。1Qを6点リードしたJX-ENEOSは、2Qに入っても宮澤や#1藤岡麻菜美がリングに向かってアタックすると、#10渡嘉敷来夢もゴール下から得点。三菱電機は#4根本葉瑠乃、#45渡邉亜弥がバックコートから一人で持ち込んでいくシーンを作るが、得点には繋げることができない。反してJX-ENEOSは宮澤が3pを沈めて12点リードとした。さらに終盤に向かってアタックを続けたJX-ENEOSはリードを広げて、43-27で前半を折り返した。
後半、JX-ENEOSは#33梅沢カディシャ樹奈がスティールを決めて、流れを作ろうしたが、その後の攻撃で藤岡がパスミスをする。このタイミングで佐藤清美HCは、シックスマン#12吉田亜沙美を投入。リズムを掴み直そうとしていたものの、勢いに乗っていた三菱電機の渡邉と根本が3pを沈めて一気に6点まで差を詰めて3Qを終了した。
Ⓒマンティー・チダ
4Qに入っても三菱電機は、渡邉の速攻から4点ビハインドまで迫り、射程圏内に入れてきたが、JX-ENEOSも踏みとどまり、三菱電機は残り7分にタイムアウトを請求。今度はJX-ENEOSが勢いを取り戻し、三菱電機も最後まで抵抗していたものの、82-76でJX-ENEOSが勝利。JX-ENEOSは、女子日本バスケットボールトップリーグの最多記録となる、Wリーグ11連覇を達成した。
「吉田の方が大事な試合でどうすれば良いかを知っている」JX-ENEOS・佐藤清美HC
第2戦は出だしから試合の主導権を掴んでいたJX-ENEOS。しかし後半の立ち上がりで、スティールからビックチャンスを得たものの、藤岡のパスミスでアウトオブバウンズとし、相手にボールを渡した。その時だった。佐藤HCは藤岡をベンチに下げて、吉田をコートに入れた。
「前半は自分たちのペースで試合ができた。3Qに三菱電機の3pが入って、こういうゲームになったが、吉田がしっかりゲームをコントロールしてくれたことで勝利につながった」と佐藤HCは記者会見の席上で試合を振り返った。つまり、この試合のキーポイントは、藤岡のパスミスから残り8分53秒に吉田をコートに投入した瞬間だったようだ。吉田はコートの中にいる藤岡に対して、大きくジェスチャーを交えながら入れ替わりでコートに入っていく。
「ミスから自分たちのペースにならない時がある。今年初めてスタートから出場する選手だったため、吉田の方が大事な試合でどうすれば良いかを知っている」と勝つことを最優先にさせるための策だった。
その後、梅沢から#23大沼美琴に交代した時以外は、4Qの終盤まで三菱電機に追い上げられても、選手交代をすることはなかった。「吉田を投入した時点で、このメンバーで行こうと。一番経験を積んでいる5人で、大沼も7年目の選手。このメンバーで勝ち進んできたので、最後はこのメンバーでやろう」と強い決意で臨んでいた。
佐藤HCが勝利を確信したのは、残り2分ぐらいで「10点離れていたので、大丈夫かと思った」と心境を明かす。「いつまでもアウトサイドが入るとは思っていなかったけど想像以上だった」と、4点差まで詰められた場面を語った。
Ⓒマンティー・チダ
JX-ENEOSはこれでWリーグ11連覇を達成。三菱電機・古賀京子HCは「慣れているなと。勝ち切る強さや勝負所もわかっている」と舌を巻いてしまうほど、JX-ENEOSの強さを改めて実感させられるファイナルだった。
また、試合後のセレモニーでは、レフリーオブザイヤーを受賞した渡邊整氏に向けて、JX-ENEOSベンチから選手にハイタッチを促すシーンがあるなど、ファイナルに連続出場している経験と慣れを感じさせる瞬間でもあった。
「『自分に従え』くらい強い気持ちを持ってやれたら」JX-ENEOS・藤岡麻菜美
チームがWリーグ11連覇で沸く中、一人悔しさを噛みしめる選手がいた。この日もスタート5として出場をしながら、後半出だしのパスミスから勝負所でコートに立つことができなかった藤岡だ。
「自分がミスしたのは駄目だけど、まだ信頼されていないのかな。シーズン通じて信頼を勝ち取れなかったのは自分自身だけど」と大事な場面でコートに立てなかった自分に対して反省する。そして「やっぱりリュウさん(吉田)だなと」と続けた。
「自分がミスをするのと、リュウさんがミスをするのは違う。リュウさんだったら許されるけど、自分だったら許されない。やっぱり不安要素なのかな」と、自分が置かれている立場をこう表現する。
「パフォーマンスもそうだけど、チームとの合わせをしっかりやらないといけない。渡嘉敷さんをもっと生かせるようなゲームメイクを、リュウさんのようにできないと駄目なのかな」と課題を挙げた。
Ⓒマンティー・チダ
しかし、下を向いてばかりはいられない。「一歩引いてしまっている自分がいる。タクさん(渡嘉敷)とあまり出来ていないことが、試合に出てしまっていた。それが無いように、気持ちを前面に出して『自分に従え』くらい強い気持ちを持ってやれたらいいかな」と来季に向けて意気込みを話した。
シーズン通して初めて名門チームのスタート5を任された藤岡。来季こそ勝負所でボールを託されるように、強い気持ちを持って頑張って欲しい。