若手主体でアジア杯5連覇
バスケットボール女子の日本が夢の金メダルを目指す2024年パリ五輪へ最高の再スタートを切った。
恩塚亨新監督のもと、10月3日に閉幕したヨルダンでのアジアカップに東京五輪代表5人のみの若手主体で臨んで史上最多の5連覇を達成。決勝は世界ランキング8位の日本が同7位の中国に78―73で競り勝った。
銀メダルに輝いた東京五輪は3点シュートの成功率や攻守の切り替えを表す「トランジション」の指針が明確だったが、さらに個々の自由度が増した+アルファの戦いぶりで新たな可能性を示した形となった。
日本はガード宮崎早織(ENEOS)を中心に攻撃を展開。決勝は平均身長が日本より9センチ高い186センチの中国を相手に、馬瓜ステファニー(トヨタ自動車)らが3人制で磨いた技術を武器に1対1を仕掛け、オコエ桃仁花(富士通)のシュートなどで得点を重ねた。守備では長身選手を徹底マークし、根負けした中国は日本より9度多い14度のターンオーバーを犯した。
オコエ桃仁花は日本協会を通じ「今回は若手選手で出場しましたが、これまでの4大会で優勝してきた日本の歴史をつなぐことができてうれしく思っています。オリンピックが終わって短い期間でしたが、しっかり対策をして、一人ひとりの役割を徹底して、チームワークの大切さをオリンピックを通して感じていたので、それをアジアカップでも体現することができたのが良かったです」とコメントした。
大会の最優秀選手には攻守での活躍が光った赤穂ひまわり(デンソー)が選ばれた。3位決定戦はオーストラリアが88―58と韓国を圧倒した。
準決勝の豪州戦は執念の逆転劇
日本は銀メダルに輝いた東京五輪後初の公式戦。歴史を築いたトム・ホーバス氏の後任に就いた恩塚亨新監督にとっては初陣でもあった。
ライバルは五輪で5位に入った中国、8強のオーストラリア、韓国など難敵ぞろい。東京五輪ではシュート、ドライブなど個々の役割分担が徹底され、3点シュートを武器とする独自戦略が実ったが、自由度が増した今大会は新たに状況判断に基づく柔軟なプレーも求められた。
執念の逆転劇を見せたのは準決勝のオーストラリア戦。2点を追う最終クオーターにチーム最多の17得点した林咲希(ENEOS)の3点シュートや赤穂の攻守にわたる活躍が光り、67―65で逆転勝ちした。
高さで上回るオーストラリアに日本は速さや堅守で対抗し、最後は赤穂の勝ち越しシュートで築いたリードを一丸となって守り切った。主将の林は「勝ち切る力をつけることができたのが、今大会の収穫だと思っています。なかなか3ポイントシュートは打たせてもらえなかったですが、それでも落ち着いてプレーできていました」と振り返った。
異彩放った独自スタイル
五輪で銀メダルと躍進した日本のスタイルは異彩を放った。平均身長176センチは参加12カ国で2番目に低く、高さの不利を補うために運動量とスピードを前面に出し、精度抜群の3点シュートを武器に世界を驚かせた。
攻撃では男子の米プロNBAで潮流となっている「5OUT」を導入し、長身のセンターもインサイドにとどまらず、5人が間隔を取って外に広がって展開。守備を外に引き寄せることで生まれたスペースをドライブで攻め、相手が対応すれば外角から3点シュートを狙うシューター陣の力がより生きる戦略だ。
それでも東京五輪は決勝で米国の徹底した「日本封じ」に対応できなかった。決勝までの5試合では成功率41%と高確率で3点シュートを決めていた日本は、決勝戦では31本中8本で成功率26%と、米国に最大の武器を封じられた。
今後も他国の警戒が強まるのは必至で、3点シュートを止められたときにどんな引き出しを持っているか戦略の幅も必要になってくる。恩塚亨新監は「私たちは世界一のアジリティ(機動力、敏捷性)を目指して活動しています。それをするために、ワクワクする気持ちを大切にしていましたが、ワクワクが最強であることをスタッフも選手たちも感じることができたと思います。優勝できた大きな要因として、終始エネルギーに溢れたプレーをすることができた点です」と総括した。
今大会は五輪で輝きを放った町田瑠唯(富士通)や高田真希(デンソー)をはじめ、けがからの復帰を目指すエース渡嘉敷来夢(ENEOS)らが不在だった。2022年9月のワールドカップ(オーストラリア)出場権を争う22年2月の予選へ、さらに競争も激化しそうだ。世界を驚かせた独自スタイルを継承しつつ、金メダルに再挑戦するパリ五輪へ進化を止めない日本が第一歩を踏み出した。
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