浮き上がるような直球が魅力
近年、育成出身からチームの主力となるスター選手が次々と生まれているソフトバンク。今季も楽しみな選手がいる。オープン戦5試合に登板し、計11イニングを無失点。打者の手元で伸び、浮き上がるような力のある直球が魅力の尾形崇斗だ。
2017年育成ドラフト1位で指名され、今季でプロ入り3年目を迎える若き右腕は、育成ゆえに1軍の出場はゼロ。過去2年間は2軍でも通算5試合の登板にとどまり、主に3軍で経験を積んできた。
昨季は計31試合(教育リーグ、練習試合、3軍の試合を含む)に登板して3勝(1敗)、防御率1.62という好成績を残したが、中でも注目すべきは奪三振数。66回2/3を投げ、投球回を大きく上回る104個の三振を奪った。
その三振の多くが、わかっていても打てないと言われる直球。球速は主に140km台後半だが、伸びが凄まじい。投げる瞬間のリストが縦向きになっているため回転軸がよく、打者の手元でホップするような感じだ。ストライクゾーンから見て、かなり高い球でも打者のバットが面白いようにまわる。まさに、全盛期の藤川球児の直球を彷彿とさせる。
3月16日には、砂川リチャード内野手とともに支配下登録選手に昇格することが発表された。1軍への定着を飛び越え、勝ちパターンでの起用も期待される。三振奪取力の高さから走者を置いたピンチの場面でも使いたくなる投手だ。
昨季セットアッパーとして大車輪の活躍を見せた甲斐野央が故障で先行きが不透明なこともあり、同じ速球派の尾形が試合終盤に登場する機会が増えるかもしれない。
リリーバーとしての資質を感じさせる
ずば抜けた三振奪取力を誇る直球だが、これまでは3軍の打者が相手。1軍の打者にどれくらい通用するかという懸念があった。だが、ここまでのオープン戦を見る限りではファウルや空振りを奪えており、一定の手応えをつかんでいるのではないか。
2月23日のオリックス戦では、3番手で6回からマウンドに上がると8回まで3イニングを投げ、2奪三振で許した安打は1本。制球も冴え、無四球無失点と文句のない投球を見せた。
また、2回を投げて無失点に抑えた3月1日の阪神戦では、走者を2人許してピンチを招くも、この日最速149kmの直球を中心とした攻める投球で後続を打ち取った。走者を置いた場面でどうなるかとみていたが、1軍の打者相手にも臆することなくピンチを切り抜けた様はリリーバーとしての資質も感じさせた。
持ち球はほかにカーブ、スライダー、チェンジアップ、フォークがあるが、基本的には直球を主体とした攻め。直球が走っているため、スライダーなどが多少甘く入っても打者が打ち損じるケースも散見された。
だが、直球だけで抑えられるほど一線級の打者は甘くない。カーブやチェンジアップなどを織り交ぜ、緩急をつけた投球術を進化させることも必要になるだろう。いずれにせよ直球の威力はとても育成の選手が投げる球ではない。否が応でも期待が高まる。
メジャー屈指のクローザーを彷彿
尾形の投球フォームはメジャーリーグでも屈指のクローザー、ドジャースのケンリー・ジャンセンを彷彿とさせる。左足を上げた後に重心を下げる際、一度膝を浮かしてから踏み出していく。この独特の動きが、打者にとってタイミングを取りにくくしている要因のひとつと考えられる。
また、投げる際には胸をしっかりと張り、リストを真っ直ぐにして縦振りでボールを放すため、スピンがよくきいた伸びのある球が投げられる。ゆっくりとタメを作る投球フォームで球が伸びてくればタイミングは合わせにくい。この直球に加え、今後スライダーやカーブ、そして投球に奥行きを持たせるチェンジアップなどの制球力が向上していけば鬼に金棒だ。
工藤公康監督も、尾形のここまでの投げっぷりを評価。勝ちパターンで起用する青写真も既に描いているのかもしれない。育成出身の新たな逸材が、1軍のマウンドで輝きを放つ日はそう遠くない。
2020年プロ野球・福岡ソフトバンクホークス記事まとめ