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西武・山野辺翔「セカンドを獲る」 名手継承へ雌伏の時

2019 4/6 11:00永田遼太郎
山野辺,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

「これがプロか」

明るい未来を予感させる、そんなプレーだった。

3月20日、メットライフドームで行われた埼玉西武対千葉ロッテのオープン戦。2回表無死一塁の場面で千葉ロッテの6番打者、ブランドン・レアードの打球は、ピッチャーの左横をゴロで抜いて、そのまま二遊間を割って行くかに思われた。

しかし、中間守備よりやや深めに守っていたセカンドの山野辺翔がこの打球をダイビングキャッチすると、すぐさまショートの源田壮亮へグラブトスして、見事な併殺プレーを完成させた。球界一の二遊間とも称される広島の菊池涼介、田中広輔にも負けずとも劣らないスーパープレーに、この日集まったライオンズファンも拍手喝采だった。

だが、それから約1週間後の3月28日に発表された開幕1軍のメンバーに山野辺翔の名前はなかった。3月5日の福岡ソフトバンク戦以降、ぱたりと当たりが止まった打撃面での不振が主な要因だった。

その日からオープン戦終了までに出場した8試合での打撃成績は17打数2安打、打率1割1分8厘。開幕1軍入りをかけたラストチャンスとも言うべき3月19日からの千葉ロッテ2連戦ではスタメン出場を果たしたものの、ともに3打数0安打に封じられ、苦しい立場に追いやられた。

「疲労はまったく感じていないです。ただ、打てないのが続いたのが本当に悔しい部分で、その気持ちはどんどん溜まっていっています」

記者の前では気丈に振舞う山野辺であったが、溢れ出る悔しさを隠しきれなかった。

3月19日の試合では千葉ロッテの涌井秀章とも対戦。4月2日に予定されているホーム開幕戦でも対戦する可能性のあったエース級を相手に11球粘ってみせるなど意地を見せた。だが、結果はセカンドライナー。その後の第二打席では相手バッテリーの配球に翻弄される形となり空振り三振に終わった。

「1打席目は結構粘れたんですけどね。2打席目も1打席目と同じ感覚のまま行ってしまったのが良くなかったのかもしれません。そこは(気持ちを)切り替えていかなければいけなかったと思います。配球もまた変わってくると思うので」

そう反省を口にすると唇をかんだ。もう一つ、プロの世界の難しさを感じたのが外国人ピッチャーとの対戦だった。大学、社会人時代は長身外国人投手との対戦がそもそもなかった。彼らが投げる角度のあるボールや手元で動くボールの鋭さに驚きを感じ「これがプロか」と痛感した。

3月3日の広島戦では本塁打を放つなど持ち前のパンチ力こそ披露したが、本来、アピールすべき守備面でショートゴロから併殺を狙った際のピボットの甘さが出て、併殺崩れで失点を許した。

「まだバットは振れている」

こうした現状を踏まえ、埼玉西武・辻発彦監督は山野辺のファーム行きを決断する。 一度、ファームで時間を持たせ、自分と向き合う時間を作ってあげようという親心が働いたように思う。

山野辺も自身の現状についてこう話す。
「(一定期間打てなくなったのは)これまでも何回かありますし、そこで(バットが)振れなくなったら終わりだと思っています。ただ、今はまだバットが振れていますし、そこはまだまだ(大丈夫)って感じです」

暗いトンネルの中に微かな光は見えている。そんな気もした。 ファームに合流した山野辺は3月26日の試合からスタメンで出場し、実戦経験を積んでいる。環境にも慣れ、自分のペースを取り戻せば、自ずと力を発揮することもできるだろう。 彼は負けず嫌いで練習熱心だ。

バッティングだけなら約1時間、ウエイトトレーニングも加えるなら合わせて2時間の自主練習を欠かさず行えるほど、練習を苦にしない男である。

「(自主練習を)やっている時はたしかに疲れるんですけど、寝たらたいがい直るのであまりきついなあと思ってやっている感じはないです。(野球が)好きで、上手くなりたいと思ってやっていますからね」

そう言って少年のように笑った。 春季キャンプ中は辻監督が自ら内野守備を指導するなど、高い期待をかけられているのは間違いない。西武黄金期を支えた名手から授かる引き出しは、これからプロの道で戦う彼にとっても大きな財産になるだろう。

山野辺は言う。
「打順にこだわりはないですけど、セカンドに関してはこれまでもずっとやってきたポジションなので、そこを獲れるように、これからも頑張ってやっていきたいと思います」
その視線は真っすぐ、前を向いていた。

〝名手継承へ″

山野辺翔が歩くその道の先に明るい未来が待っている。それだけは間違いない。 これからの彼の活躍に期待だ!