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昨季は61年ぶりの珍事も…左の長距離砲には「鬼門」の甲子園球場

2019 3/17 07:00SPAIA編集部
阪神甲子園球場,ⒸSPAIA
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右中間・左中間が極端に深い特殊なグラウンド形状

選抜高校野球大会の開幕が迫る阪神甲子園球場。2017年夏の第99回選手権大会では68本塁打の大会新記録が飛び出し、空中戦が目立っている高校野球。では、阪神がホームとして使用しているプロ野球ではどうだろう。今回はグラウンドで生まれる様々なデータから、この球場の特性を探ってみたい。

阪神甲子園球場

※PFはパークファクターの略で、相対的な「本塁打の出やすさ」や「得点の入りやすさ」を球場ごとに比較することができる指標。

甲子園と聞けば、美しい天然芝が深々と広がる外野グラウンドをイメージする方が多いだろう。ホームから外野フェンスまでの距離は両翼95メートル、中堅118メートルと、横浜スタジアムとほぼ同じ。更に、中堅フェンスは120メートルの神宮球場よりも前。最も外野が狭く、本塁打が出やすい部類に入る2球場とそれぞれの箇所における寸法はあまり変わらない。

しかし、甲子園は右中間・左中間の膨らみが極端に深く、中堅から真横に近い方向へフェンスが広がっていく特殊な形状をしている。右翼から左翼方向へ吹く強烈な浜風も重なり、ポール際以外は完璧に捉えた当たりでないとなかなかフェンスを越えてくれないのが実情だ。

左の長距離砲にとっての「鬼門」

1924年開場の甲子園は、現在あるプロ野球本拠地球場の中で最も古く歴史があり、公式戦試合数も最多となっている。ところが、通算本塁打は5268試合で6371本・1試合あたり1.20本と、試合数が1500以上少ない神宮球場(3522試合で7301本・1試合あたり2.07本)を下回っている。外野フェンスを前に出す「ラッキーゾーン」があった約40年間も含めた数字で、これだけの差が出ているのだ。

昨季に関しては、12球場最少の68本塁打だった。相対的な「本塁打の出やすさ」や「得点の入りやすさ」を球場ごとに比較することができる「パークファクター(以下、PF)」では、本塁打PFは2番目に低い0.62。得点PFはナゴヤドームと並んで最も低い0.77。

PFはホームチームの打力による影響を極力排除して算出されている。本塁打の少なさは阪神打線だけの責任ではなく、球場としての特性ということである。

さらに、前述した浜風の影響により右方向への本塁打が出にくい特徴もある。ナゴヤドームでは右方向に36本(43.9%)の本塁打があったのに対し、甲子園は23本(33.8%)と、ここで本数の差がついている。右方向への本塁打が他球場と比べて極端に少なく、左の長距離砲にとっての「鬼門」ともいえる。

阪神甲子園球場

ⒸSPAIA

意外にも二塁打が少ない

安打の内訳にも注目してみたい。単打は1試合あたり12.48本で、12球場で神宮球場(12.70本)の次に多い数字。三塁打は平均的だが、外野の広さの割に少し意外なのが二塁打の少なさだ。

昨季の甲子園は175二塁打となり、1試合あたり2.82本は12球場で3番目に少ない。甲子園よりも1試合あたりの二塁打が少ないのは、マツダスタジアム(2.66本)と楽天生命パーク(2.39)。プロ野球の本拠地で3つしかない天然芝球場がちょうどここに並ぶ。

神宮球場、横浜スタジアム、東京ドームは比較的多くの二塁打が出ており、特に横浜スタジアムは12球場最多の250本(1試合あたり3.52本)。外野が狭くとも球足が速い人工芝球場の方が、二塁打は生まれやすいといえそうだ。本塁打だけでなく二塁打の出にくさも、甲子園を「投手有利」にさせている要因なのかもしれない。

甲子園最多本塁打を放ったのはまさかの……

最後に、昨季の甲子園でよく打った選手を見ておこう。

昨季甲子園で記録された68本塁打の内訳は、ビジターチーム48本に対し阪神が20本。他球場を見ると、西武打線が107本をマークしたメットライフドームなど、7球場はホームチームの本塁打数がビジターチームより多くなっている。ビジターチームの半分以下の本塁打数になったのは甲子園のみだった。

阪神甲子園球場

ⒸSPAIA


甲子園での最多本塁打選手も阪神からではない。阪神で最多は福留孝介、糸井嘉男の5本。これを5月からスタメンに定着したDeNA・ソトが6本で上回った。甲子園で阪神以外の選手が最多本塁打を記録するのは61年ぶりの事態。順位も最下位に沈んでしまったが、チーム史上でも歴史的な貧打のシーズンだったようだ。

福留・糸井に次ぐのは4本の大山悠輔で、ほかに複数本塁打をマークしたのは2本の中谷将大のみ。主砲候補として獲得したロサリオは、結局甲子園でノーアーチに終わってしまった。今季は是非、大山、中谷、新外国人のマルテら右打者が本塁打を量産し、左打者に不利な環境といえる甲子園を盛り上げていってほしいところだ。

※数字はすべて2018年シーズン終了時点

(本文:青木スラッガー)

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